The Other Side
乙訓書蔵 Otokuni Kakuzoh
Komachi 1
「ジロちゃんは世良が好きみたいよー?」
タロ君の答えにガックリ項垂れる。分かってた。鈍感な私ですら察しはついた。小林君の視線の先にはいつもウララちゃんがいる。ウララちゃんはとてもいい子。こんな内気な私にもウララちゃんは明るく楽しく接してくれるもの。華奢で女の子らしい体つきのウララちゃんじゃ勝ち目ない。……私は引っ込み思案のガリガリノッポだもの。
ゲーセンのベンチに並んで座るタロ君は鼻の頭を掻く。
「たはーん。やっぱり落ち込むよな。でも俺が気ぃ遣ってパチこいたらコマっちゃん嫌でしょ?」
「察してたけど裏打ちされると……勝手に落ち込んでごめん。友達だからこそちゃんと答えてくれたんだよね?」
「落ち込む時は落ち込んでいーのよ? タロちゃんとコマっちゃんの、体育係の仲じゃない? 俺だって舞美さんに『彼氏出来た』って言われたら怒り狂ってソイツ殴り殺しかねないものー」カララ笑ったタロ君はペットボトルのコーラを飲み干した。
「タ……タロ君はアグレッシブだよね。殴っちゃうのは兎も角フットワークが軽いな……いいな。羨ましい」
「『欲しい』とか『やりたい』って思ったら直ぐに行動するべきよ? コマっちゃん告っちゃえば?」
「え? 無理無理無理っ。そんな事出来ない! 振られちゃうよ!」
「結果がどうであれ初めの一歩踏み出さなきゃスタート地点に立てないわよ?」
「……うーん。振られるのが目に見えると……胸が痛いな」
「想いを伝えるのは重要よ? 今のままじゃあの鈍感お馬鹿、コマっちゃんの想いに気付かないままよ?」
「そっか……。彼氏になって貰えないでも『好き』って伝えるのは大切だよね。もう直ぐ二年生になるしクラス離れたら顔合わせられないし余計に影が薄くなっちゃう」
「そそ。体育係なんだからフットワーク軽くいきましょ? 来月一四日ってチョコレートの日じゃない? 渡しちまえ!」
「うーん……ちゃんと告白出来るかな? 小林君とは疎かクラスの男の子とまともに話した事ないし……ちゃんとお話し出来るのは体育係のタロ君だけだもの」
「ジロちゃんも俺も成分殆ど一緒! 同じ家に住んで同じ釜の飯喰ってんだから!」タロ君は私の背をバシバシ叩く。タロ君面白くていい人だよね。大好き。
「うん。ありがとタロ君。タロ君と殆ど一緒なら頑張ってみる! タロ君にもチョコ渡すからね」
タロ君はにっかり笑うと空いたダンスゲームの筐体を指差し『師匠、景気付けにもうワンゲーム遊びましょーぜ』と腰を上げた。
「よく知らないし……好きな子居るしごめんね」
二月の放課後、陸上部の部室へ向かう小林君を捕まえて第一アリーナの裏で告白した。それが答えだった。
「う……うん。わ、私こそ、変な事言ってご、ごめんね」
押し付けられたブラウニーを小林君は見遣る。
「あ。え、と。……本当に貰っていいの?」
無理矢理笑顔を作って幾度となく頷いた。
「サンキュ。ごめんね」困ったような微笑を浮かべた小林君は片手を軽くブラウニーを掲げると踵を返した。
徐々に遠ざかる小林君の背を見送る。
綺麗さっぱりフラれた。
こうなるって分かってた。『彼氏になって貰えないでも『好き』って伝えるのは大切だよね』なんて殊勝な事思っても、心の片隅で期待していたんだと思う。胸が締め付けられてすごく苦しい。帰らなきゃいけないのに足が動かない。……ヤだ。私落ち込んでる。この後に及んで期待してたなんてズルい。嫌な女。恥知らず。フラれて当たり前だよ。
その場から一歩も動けずにいるとシャツの胸ポケットの中の携帯電話が振動した。フリップを開き画面を見るとタロ君からの着信だった。
『一通り義理チョコ貰ったのよねー』『コマっちゃんからも愛のこもった義理チョコ欲しいのねー』『今から毟り取りに行くのよー』『何処に居るん?』
受話口からタロ君の優しい声が聞こえる。
答えなきゃいけないのに唇が動かない。
『コマっちゃん?』
「ごめ……。だいい……ナ、ら」声を振り絞っても言葉にならない。
しかし数秒後タロ君は全てを解してくれた。
『……第一アリーナの裏? 押っ取り刀で馳せ参じるから待ってちょんまげ』
通話を切ったタロ君は三分と待たずに駆けつけてくれた。唇を真一文字に締めてその場に突っ立つ私を見ると眉を下げた。
「頑張った! コマっちゃんよく頑張った!」
頭と肩を引き寄せられ頬をタロ君の胸に押し付けられる。心臓の音が聞こえる。走ってきた所為で鼓動が速い。
「泣いていいから! 悔しかったら悲しかったら泣いていいから! 無理すんな!」
ポンポンと優しく背を叩かれていると涙腺が熱くなる。……なんだかパパみたい。パパもこうやって慰めてくれたよね。小学校の頃、友達と喧嘩した時とか大嫌いな運動会でリレーのアンカー任せられてビリだった時とか慰めてくれたよね。懐かしいな。息苦しくなって空気を吸うとシーブリーズと汗と埃が混じったタロ君の匂いがした。
泣き疲れて顔を上げると微笑んだタロ君は頭を撫でてくれた。
「ちょっとは落ち着いた?」
「……ん。ごめん。男子が主役の日なのに」
「なーに言うてんの。女子が主役の日よ? 歩けそう?」
「うん」
「じゃ、打ち上げしに行こ? デニーズで甘ーいチョコパフェ食べましょ? タロちゃん奢るから」
「食欲なくて」やっとの想いでぎこちない笑みを作る。
「んまー。繊細な女子は違うわねぇ。んじゃゲーセンとカラオケ行きましょ? 発散しましょ?」
ステップ踏んだら落ち着くかな? マイク握ったら元気出るかな? こっくり頷くとタロ君は私の肩を軽く叩いてくれた。
失恋して一週間が経つと小林君を見かけても涙がこみ上げなくなった。これならクラス替えまで何とか頑張れそうかな……。立ち直りかけていた頃、小林君とタロ君が揃って欠席した。小林君と同居するタロ君にメールするが返事はない。もやもや案じていると帰りのホームルームで担任が、小林君が事故に遭った旨を伝えた。
学校一有名な……ううん、全国の陸上部で最も有名な、未来のオリンピック選手として望まれていた小林君が選手生命を奪われた事に皆が愕然とした。小林君の容体を担任は説明する。……正直、頭に入らなかった。担任の説明が終わるや否や、小林君と同じクラス委員の森山君が『俺見舞いに行きたい!』と挙手して立ち上がった。ひょうきんで面白い竹下君も『俺も!』と立ち上がる。
「わ、私も!」
思わず立ち上がるとクラスの皆んなの視線を一身に受ける。
頬を染めて俯いていると『コマチが行くならあちしもー』とウララちゃんが立ち上がった。
担任は微笑する。
「優しい奴らばっかで俺嬉しいよ。普段からの小林の人望が物を言うんだな」
「先生、この後見舞い行っても大丈夫系?」竹下君は問うた。
「だーかーらー、今話したでしょ。って、晴天の霹靂で話が頭に入らないよな。手術は終わったがまだ起きないらしい。起きて落ち着いたら警察と話しして、それからようやく見舞い出来るか出来ないかって状態だ」
「見舞い出来ないってどう言う事?」竹下君は再び問う。
「日常生活に支障は出ないが選手生命断たれた訳だからな……。小学校のクラブ活動から今までずっと走り続けてきたらしい。相当心にキて人と会えない状態になっているかもしれない」
竹下君を始め、クラスの皆んなは俯いた。
「……見舞い、行かない方が良いかな」竹下君は眉を下げる。
「今の段階では分からん。今日のところは俺が小林のお袋さんや付き添いの東條に挨拶するから早くても明日以降の話だと考えてくれ。ってな訳で解散!」
部活へ向かったり帰路についたりとクラスメイトが次々教室を出て行く。すると一番初めに挙手した森山君が『見舞い希望者集合!』と声を掛けた。
「迷惑になったらいけないから先生の言う通り、暫く様子見だけど……やっぱり心配だよな? 東條に連絡取るべきだよな?」クラス委員の森山君は球児刈りの頭を撫でる。
竹下君、ウララちゃん、私は揃って頷いた。
「俺、東條と接点ないからアドレス知らないんだけど誰かアドレス知ってる?」森山君は竹下君を見遣る。
しかし竹下君は首を横に振る。小林君の想い人のウララちゃんも『ってか東條のアドレス知ってる奴いるのー? あいつセフレと小林以外の奴と絡んでる所見た事ないんだけどー』と気怠そうに言った。
「あの……私、知ってる」
おずおずと挙手するとみんなに拍手された。
「立花すげぇ!」
「え? もしかして本命の彼女? ってか係でよく絡んでるもんな!」
「コマチやるぅ!」
「か、彼女じゃないよ。タロ君、近付き難い雰囲気あるけど話すととてもいい人だよ?」
「じゃさ、メールしてみてー。先生よりも詳しい事聞けそー」ウララちゃんは私の頬を軽く突つく。
「う、うん。……え、と。文面どうしよう。……『大丈夫?』で大丈夫かな?」
「それは全然大丈夫じゃないなー」森山君は苦笑いを浮かべる。
『コマチ可愛すぎ!』とウララちゃんに抱きつかれ、『天然は侮れん』と竹下君にライバル視されているとルーズリーフを取り出した森山君は文面を書いてくれた。さらっと書いた文面を森山君は私に差し出す。
「これ聞きたいからメール打ってくれると助かる。これから三〇分だけ待って返信来なかったら今日は解散しよう。東條だって忙しいだろうからな」
受け取った用紙を見ながら一字一句間違えないようにメールを打ち、タロ君へ送信した。
いつでも連絡出来るようにとみんなでアドレス交換しているとタロ君から短いメールが届いた。
『病院向かってるトコよー。五分後に電話かけるからよろしこ。朝のメール返信できなくて心配かけてごめーんちょ』
森山君と竹下君、ウララちゃんは『すげっ! あの東條がどちゃくちゃフレンドリー!』『コマチってばムツゴロウさんじゃん!』と一斉に拍手した。タロ君ってばクラスメイトに野生動物か何かだと思われてるよ……。
タロ君の話で盛り上がってると電話が掛かってきた。無論タロ君からだ。
みんなの前で通話するとタロ君は『そこに森山とかいるんでしょ? 手っ取り早く話したいからスピーカーフォンにしてくんない?』と指示を出した。
「うん、森山君達いるよ。ちょっと待ってね」
携帯電話を頬から離すと音量を最大に設定し、スピーカーのボタンを押す。
『ちゃおちゃお。俺の美声聞こえる?』
突如響いたタロ君の声に三人は驚く。
「え? ちょっと、スピーカーにしたの?」気怠そうな雰囲気から一転、ウララちゃんは瞳を丸くする。
『世良も居たんか』
「居ちゃ悪いー?」
「俺もおるよ!」竹下君もすかさず乗っかった。
『森山に世良に竹中、コマっちゃんね。みんなジロちゃんを心配してくれてありがとねー』
「忙しい所悪い。先生の話じゃ不透明だったからよく分からなくてさ。小林が心配で連絡したんだ」
『んあ。メールの文面考えたの森山でしょ?』
「よく分かったな。流石、全国統一模試一位」
『まあね』とタロ君は笑うと事故や手術の事、怪我を負った左脚の見通し、小林君の家族の事、店の事等、簡潔に話してくれた。
「サンキュ。よく分かった。しかし昨日手術を終えて疾うに麻酔が切れてるのに起きないとか……相当参ってるんだな」
『そうなのよねー。だから覚醒しても見舞いに来れるような状態になるか分からん。ジロちゃんは陸上に魂燃やしてたからな。それに繊細な奴だから下手すりゃ自殺とか考えちゃうかも知れんし。起きた時は必ず傍にいなきゃいかん。目が離せんわ』
深刻な話に一同俯く。
「何か差し入れられる物ある?」私は静寂を破った。
『おねんねしてるし点滴から栄養取ってるし今の所は大丈夫よー』
「ううん。小林君じゃなくてタロ君が欲しい物」
森山君、竹下君、ウララちゃんは瞳を丸くして私を見遣る。
『マジ? じゃあコマっちゃんのチュー! ってのは冗談で手間じゃなければ図書館で示談関係の本借りてきて欲しいんだけどいい?』
「うん。今日持って行っても平気?」
『うわ。マジ? すげぇ助かる。序でにワガママ言うと交通事故の判例等に特化した内容の物借りてきて欲しいのよ。だから学校のショボイ図書館じゃなくて区立の方がいいのよね。大丈夫そう?』
「うん。……遅くなっちゃうけど平気?」
『大丈夫よー。ありがとね。個室だから泊まり込み出来るし、院外なら面会時間オーバーしても物の受け取り出来るし。本当、助かる。森山か竹下、一緒に付いてあげてくんない? 女子一人、夜道を歩かせる訳にはいかんから』
「分かった。俺行くよ」森山君は頷いた。
「俺も!」
「ってかあちしも行くー」
竹下君とウララちゃんもパーティに加わる。
それを聞いたタロ君は『ジロちゃんの人望が成せる業だなぁ。みんなありがとね』と笑った。
区立図書館で手分けして本を探し、みんなのカードで沢山本を借りた。大きなスーパーに寄って飲み物やリップクリーム、化粧水や目薬を買い、病院へ向かう。エントランス前で七時に待ち合わせしていたが五分前に着いた時にはタロ君がエントランスで伸びをしていた。
「タロ君」
声を掛けるとタロ君は微笑む。いつもよりも柔和な笑み……疲れているんだろうな。
「遅くまでありがとねー! めっちゃ助かった!」タロ君は私の肩を軽く叩いた。
「東條がニコニコしてる。気持ち悪い」
「笑顔が似合わない氷男なヤリチンが」
「いけない物を見てしまった。俺は消される」
森山君達の冗談に『んまー失礼ねぇ』と苦笑を浮かべたタロ君は『でもワザワザありがとね』と頭を下げた。
「水臭いな。クラスメイトだろ」森山君は図書館で借りた本一〇冊が入った袋を渡す。
「サンキュ! ネットだけじゃ不充分で書籍あると助かるわ」
「言われた通り全部事故関連だけど……裁判とかやるの?」
「ジロが望めばね。でもアイツ、人を恨むような奴じゃないから大方示談になると思う。轢いたおっさんも誠心誠意対応してくれる人っぽいし。だから弁護士立てずに両者円満で示談進めたいと思って準備してんのよ」
「お袋さんがやるの?」
「いや、俺よ?」
「マジか。……やっぱり頭いい奴は違うな」
「自分で解決出来そうな事に金かけたくないだけよ。今後ジロちゃんお金必要になるし多く残してあげてぇなって」
「東條ってばめちゃくちゃいい奴」竹下君は流したエア涙を拭う。
「当然。俺はジロちゃんのパパなのよー」タロ君は鼻息を荒げた。
「東條、これあちしとコマチから」ウララちゃんはレジ袋を差し出した。
「うお。何々? エロ本? 流石に付き添いが病院でそれは……」適度な重みのレジ袋を受け取ったタロ君はニヤつく。
「馬鹿。コマチがそんな物買う訳ないでしょ」
「そりゃそーだ」
タロ君はカララ笑うと袋を覗く。
「お茶は助かるわ! 他にも何か入ってんな。ふんふん……化粧水にリップクリーム、目薬……すっげぇ有り難ぇ! 院内乾燥してるからめちゃくちゃ乾くのよー! 流石女子! 目の付け所がシャープ!」
得意げなウララちゃんと視線が合う。ウララちゃんは悪戯っぽく笑った。みんなタロ君と仲良くなれたようで良かった……。
タロ君に微笑む。
「また何か欲しい物があったら遠慮なく言ってね……?」
「おうよ!」タロ君はにっかり笑った。
病院前にバス停があったけど既に最終バスは無くなっていた。四人で歩いて駅まで歩いた。ロータリーで森山君と竹下君と別れた直後、ウララちゃんが問うた。
「ねーねー。コマチって東條と付き合ってるの?」
「え……?」
悪戯っぽく笑ったウララちゃんは私の腕に縋りつく。
「だってさー。あの東條と仲がいいんだよ? アイツ、イケメンインテリだけどヤリチンで有名じゃん。彼女作らずにセフレ囲って、そのセフレの先輩とも学校じゃ挨拶だけだし。その上中坊の時に高校生や大人と喧嘩しても負け知らずだったって話じゃん。それに小林以外の男子と話す所初めて見た。休み時間は本読んでるか勉強してるみたいで考え込んで……一線引いてるってかクラスとは馴れ合わないみたいな?」
「……確かに良くない噂は聞くけど話すととてもいい人だよ?」
「うん。それは感じた。コマチや小林みたいないい子には心開くのかなーって。めっちゃ仲良さそうだから」
「そうかな? 仲良くしてもらってる感じだと思うけど……」
「えー。だってこの前、アリーナの裏で抱き合ってたじゃん」
瞬時に赤面する。きっとヴァレンタインデーで小林君に振られた直後だ。見られてたんだ。
「ね、ね。詳しい話聞かせてよ。コマチが付き合うなんてよっぽどいい男なんでしょ? コマチの純粋な優しさがだらしない東條を変えたとか?」ウララちゃんは大きな瞳を輝かせる。
「ご、誤解だよ。仲の良いお友達だって」
「うそーん。誰にも話さないから恋バナしよー! あちしも男の好み話すしフラペ奢るからー!」
ウララちゃんも好きな人居るんだ……。小林君だったら……どうしよう。聞きたいけど聞きたくない。また傷つくのが怖い。
目を泳がせているとウララちゃんは駅ビルのフロア案内図に記された人魚珈琲の看板を指差し私の腕を引っ張った。
「ホラホラ。行こ! サクラホワイトチョコ飲もうぜ!」
退勤時間、そして夕飯時の所為か人魚珈琲は空いていた。ソファに並んで座り、新作のフラペチーノを楽しんでいるとウララちゃんは満足そうに笑んだ。
「んふふ。やっぱり美味し。月一の楽しみですなー。寒くてもフラペは格別!」
「チョコレートドリンクなんだね。初めて飲んだ。美味しいね」
「知らなかったの? ってかコマチと遊ぶの初めてだもんねー」
「うん。私も放課後、カフェに来るの初めて」
「マジか。……放課後ってやっぱりジャズ研?」
「うん。メンバーと練習したり時々一人でゲーセン行ったり」
「えーっ! まさか一人でプリ撮るとか?」
「ううん。プリじゃなくてゲームで遊んでるよ」
ウララちゃんは笑う。
「マジか! ゲーセンで遊ぶコマチってなかなか想像つかない。読書か黄昏てるかのおっとりコマチが! ってかゲームするんだ? 何のゲーム?」
「……秘密にしてね? 笑わないでね? ダンスだよ」
瞳を輝かせたウララちゃんは私に抱きつく。スイカみたいな大きな胸がぎゅうぎゅうと当たる。……いいな。私ペチャパイだから切なくなるよ。
「コマチ可愛すぎっ! ギャップ萌え!」
はしゃぐウララちゃんをゆっくり離し、ゲーセンでタロ君と出会った事やゲーム仲間である事、ヴァレンタインに振られて慰められた事を話した(誰に告白したかは伏せた)。
「なるほどね。それで仲がいいんだ?」
「うん。いいお友達なの」
「んー? 東條はそうかなー? 男子は抱き合わないでしょー?」
そうなのかな? タロ君に抱きしめられた時、ドキドキしなかった。それどころかパパみたいだなって安心した。
「お互いに恋愛感情なくてハグっていけないのかな?」
「いけないとかいいとかあちしが決める事じゃないけど……なかなかないよね。あちしが思ったのは、コマチは小林が大好きだけど東條はコマチを彼女にしたいんじゃないかって思った」
「こっ小林君!?」
ウララちゃんはにんまり笑う。
「でしょでしょー?」
「バレてた……。でも振られたから、もう終わったの」
「小林め。こんなに可愛くて優しいコマチを振るとは馬鹿すぎる! ……まあコマチには東條が居るしね」
「それはないよ。だってタロ君、好きな人ちゃんといるもの」
「誰?」
「『舞美さん』って年上の女性だって。片想いだって聞いた」
「ふーん。でも好きな人ちゃんといるのに東條ってば好きじゃない女子とセックス出来るんだね。私、ちょっとそーゆーの分かんないや」
「……うん。私も理解は出来ない。でも私には友達として向き合ってくれるし『俺に惚れてくれた子とは絶対に遊ばない』って言ってるから決して悪い人じゃないと思う」
ウララちゃんはヘラっと笑う。
「だよね。本気の子を弄ばなければあちしも黙っとく。ってか東條ってそんな事までコマチに話してるんだ? マブダチじゃん?」
「親友って思ってもいいのかな? タロ君みたいな凄い人と引っ込み思案の私なんて釣り合わなくて失礼だよ」
眉を吊り上げたウララちゃんは私の頬を思い切りつねった。
「痛いよ、痛いよウララちゃん」
「まーた謙遜して! あちしのマブダチ悪く言わないでよ?」
「ごめん。もうそんな事言わないよ」……親友って思ってくれてるんだ。嬉しいな。
ウララちゃんは鼻を鳴らすと頬から指を離す。
「そ、そ。謙遜ばかりが美徳じゃないの。胸を張りなさいっ!」
うーん……張れる胸がなくて困ってるんだけどな……。
「……ところで、ウララちゃんは好きな人いるの?」
「んー、いないなぁ」
「どんな人が好き?」
「お尻が小さい人!」
「え?」
ストローをかき回すウララちゃんはうししと笑う。
「女って子宮と骨盤の所為で尻デカじゃん? メンズの小尻がキュートで好きなんだよね。あと背中と腕に程良く筋肉ついてる人」
「う、運動部? 陸上とか?」
「ある程度逆三角形だったら運動部までいかなくてもいいかなー。でも東條や小林みたいに背が高すぎるのは無理。まともに話そうとすると見上げっぱなしで首が痛くなる」
「でも優しいよ?」
「優しくてもイケメンでも無理。だって万年肩凝りが悪化しちゃうもーん」ウララちゃんは肩を揉む。……そりゃ胸にスイカを二玉もつけてれば肩凝りになるよね。
「性格はどんな人がいいの?」
「んー。誰にでも優しいけどあちしには気絶するほどめっちゃ優しくて将来の見通しちゃんと立てて夢があってそれで女の子に対してかなーり余裕がある人かな? ガツガツしてない人がいい。あと歳が離れた人なら尚いいかも。手に職持ってる系の。だったらちょっぴりスケベでもいいや」
「ウララちゃんってしっかりしてるよね」
「そう? どうせ恋して足が浮いちゃうなら少しでも地に足つけた相手の方が安心できるじゃん」
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