ふくぎ

T.KANEKO

僕の生き方 ☆

「今すぐに危険な状態になる、と言う事ではないですが、逆に言えば、いつ危険な状態に陥ってもおかしくはない、と言う事の裏返しでして…… 付け加えるならば、この状況は、いつまで、と言う期限付きのものではなく、生涯ずっとです。そして、時が経てば、経つほど、確率は上がっていきます。大切なのは経過をこまめに観察する事、それから無茶はしない事、それに…… 長さよりも、質の高さを優先されたほうが良いと思います」


 白髪交じりで、銀縁眼鏡、一見神経質そうに見える医者は、緊張感を漂わす事無く、そう言った。

 やんわりとした言葉で言っているのか、ストレートな表現なのか、そこは良く分からないが、あなたは時限爆弾を抱えているので悔いの無い生き方をして下さい、要はそういう事なのだろうと、僕は受け取った。


 異変が起きたのは一ヶ月前。

 二日間会社に泊まり、三日目の深夜、着替えを取りに自宅へ戻ろうとしたときの事だった。

 タクシーを待っていたら、突然、目眩がして、呼吸をする事ができなくなり、意識が遠のいた。

 苦しさに耐え切れず、膝をつき、蹲り、冷たいアスファルトの上に倒れた。

 その後の事は覚えていない。


 微かな記憶を辿れば、途切れ途切れに女性の声が聞えて来たのと、目の前に赤いシーサーがブラ下っていた事、でもそれが現実なのか夢なのか、そこは定かではない。

 

 目が覚めたら、僕は病室のベッドの上で身体中のあちこちに管が繋がれていた。

 かろうじて生きてはいたが、助かって良かったのか、それは分からない。

 あのまま死んでしまったほうが幸せだったんじゃないか、そう思う事もある。


 そして、僕は生き方を変えた。

 地位、名声、金、権力…… 

 こういった物を手に入れる為に、がむしゃらに働いてきたが、全て捨てた。

 いつ爆発するか分からない爆弾を抱えている者にとって、そんな物は何の役にも立たないからだ。

 

 僕は、目の前の幸せだけを見つめて生きる。

 いつ死んでもいいように……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る