日雇い
葛城 ゼン
日雇い
薄暗いトンネルの中。偶然体と体がぶつかる。
「おっと、すまんね。あれ!お前さん久しぶりじゃねえか。元気にしてたか」
「あっ!おやっさんご無沙汰してます。いやあ最近はなかなか」
「当たりの仕事がねえってか。まあそれも仕方ねえ。今日はどこに行くことになったんだ」
「それが向こうの住宅街なんですわ」
「ほう、住宅街か。どんな事をやるんだ」
「いつも通りですよ。行ってからじゃないとわからねえってやつです。おやっさんはどちらで?」
「俺は工場だ。あそこのねじ工場」
「またなかなか汚れそうなところで」
「まあ大したことはさせられねえさ。ネジを洗うくらいだろうな。そういや最近、他の連中を見かけねえか。ぱったり会わなくなっちまってよ」
「あ、そうそう。この前、川上のやつに会いましたよ」
「お、なかなか懐かしい名前を出して来やがったな。どうしてた?」
「それがですね。お互い帰る最中だったんですが、やけにあいつ変わっちまってましたよ」
「あんなに心が透き通っていたやつがか?」
「そうなんです。何を話しても『俺は穢れちまった』としか言わないんです」
「それは、なかなか過酷だったらしいな。どこに向かわされていたんだ?」
「それが……今日俺が行く住宅街なんですよね」
「はっ、そいつは災難だ。まあせいぜい頑張れよ」
トンネルの分岐点が見えてくる。
「全く、おやっさんは適当なことを言うんだから」
「まあまあ。また会えれば儲けもんだな」
「縁起でもないことを言わないでくださいよ。また会えるに決まっているじゃないですか」
「お前は図体も自信もたっぷりだな」
「そりゃそうでしょ。だって俺たち水は世界をめぐりめぐっているんですから」
日雇い 葛城 ゼン @KATSURAGI-nov
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