魔王に保護されました

 乗っていたバスが事故に遭った挙句遭難する羽目になり、ひとまず人が集まる場所に行こうと夜道を彷徨っていたら、攫われた。連れ込まれた先で、自分はようやく異世界トリップした事に気づいた。


 ――ああ、今日もだ。少女は静かに溜め息を吐く。ちらちら、そわそわ。落ち着きのない猫のように、小娘の一挙一動を目で追っている。獣らしく耳と尻尾でも生えていたらそれはもうピコピコ跳び付きたいといった風に動いていそうな様子で、見られている自分としては気が気ではない。正直な話、犬や猫なんて可愛らしいモノではなく、蛇のゲージに放り出されたヒヨコのような気分だ。

 いいや、正しくは魔王に差し出された生贄か。何せ少女に穴を空けんばかりに逐一観察しているのは正真正銘、この世界の魔王なのだから。

 今のところ自分をピー(意味深的な意味でもグロ的な意味でも)する気はないんだというのはここ数日で確信したけれど、しんどかった。気持ちが詰めこまれすぎた視線を受けとる方は、溜まったものじゃない。ぶっちゃけ言うと怖い。超怖い。これならまだしつこく話しかけてくれた方がかなりマシだ。冷酷非情(という設定で書いた)の魔王サマは、本当に何がしたいのだろうか。

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