第41話 新発見続々。

「本当に休まなくていいのかい?」

「ええ……治療もしてもらいましたし」


メイドさんが翳した手から淡い緑の光が溢れ、エグジムの顔に降り注ぐ。エルフィン家次期党首にして第二中隊隊長でもあるエリウッドのそば付きメイドさんは、優れた回復魔法の使い手だった。


「痛い所はないですか?」

「だんだん収まってきました。ありがとうございます」

「私も使えますよ、回復魔法」

「……」

「スルーはかなしゅうございます」


エグジムがぶん殴られてからもサラッと見守っていたメイドさんにはスルーくらいが丁度いい。ユーリのそば付きメイドさんの謎主張をさらっと流して治療を継続。

ちなみに両方メイドさんでは面倒なので名前を聞いたらあっさり教えてくれた。ユーリのそば付きがローゼル、エリウッドのそば付きがエマとのこと。年齢もエグジムやユーリと近いらしい。


「エルフィン家のそば付きメイドは治療手段を持つことが前提だからね。エマも結構腕のいい治癒士だよ」

「もったいないお言葉です、エル様」

 

照れてモジモジしながらも治療にはブレのないエマは成程しっかりした治癒士なのだろう。謎にピシッとしたローゼルは皆がスルーした。


「にしても頑丈だねエグジム君。ユーリの一撃はエルフィン伯爵様、いや、父上でもダウンするというのに」

「よく父とドツキ……いえ、組み手してますから」

「はははっ、気を遣わないで何時もの言葉遣いでいいよ。にしてもビリーム殿とか。なら頑丈にもなるな」


うむうむと納得顔で頷くエリウッド。


「父となら何かあるんですか?」

「おや聞いてないかい? ビリーム殿はその昔、父上に雇われて傭兵として各地を冒険していたのだよ」

「あ、それは何となく聞いたことあります。昔からの友人だと」

「そうそう、ならこれも知ってるかな? 当時父上をリーダーとした傭兵パーティーはギルドからゴールドランクを受けていたこと」

「うえっ!?」


ゴールドといえば上から2番目。トップであるブラックが所謂「特別枠」であり、番外戦力と見られてる点を考慮すれば傭兵トップの実力集団ということになる。

傭兵達は皆、自分がゴールドランクになることを志し、既に達してる者達は国からも重用される。

個人の能力を最大限に極めた人類上位戦力。それがゴールドランク。

で、あるが、ビリームがそれ?

多分今頃店で死にかけている父親が?


「……ないない」

「ははは……まああの人は飄々としてるからね……でもあの人、リタリカさんと並んで古参の傭兵には恐れられてたんだよ。剛剣のビリームって」

「うそだ……。って、え? リタリカ?」

「うん。氷雪のリタリカ。君のお母さん」

「まじですか……」


新事実その二。母親もゴールドでした。

新事実その三。二人ともなんか二つ名持ってました。


「ちなみに当時のパーティーは5人で、一人はうちの母上だね」

「最後の一人は?」

「ガンドって鍛冶屋さん」


なんかもう、どこから突っ込んでいいのか。


「とりあえず、領主様とうちの父が親しそうな理由はわかりました」

「それはよかった。まあ逆に、私としてはエグジム君が知らなかった方が驚きなんだけどね」


それはきっと、あの親が面倒がったか、話すのを忘れていたか、そもそも過去を気にしてないかだろう。

今のことと先のことしか見てないのだ。良くも悪くも引きずらないというのか。

街の内外を問わずに直感任せで営業に行ってしまうリタリカに、趣味と実益といった感じに仕立て屋業務へと邁進するビリーム。

二人三脚でやっている店……今はエグジムに傭兵娘二人も加わって賑やかになったが……これを盛り立てていくのが楽しいのだろう。

好きなことに邁進している両親。

考えてみると聞いてないのも頷けた。

そんなこと考えてる暇はないのだろう。


「おや、なんか嬉しそうだね」

「え、あ、いや……両親らしいなって」

「確かにね。お二人のことはそれこそ生まれた時から知ってるけど、今の生活が楽しくて過去を振り返ることを忘れてる気がするよ」

「もう完全にそれだと思います」


仕立て屋の少年と時期領主が顔を見合わせて可笑しそうに笑う。

丁度エグジムの治癒を終えたエマがほほえましいものを見る目をしつつ、湯気が立つカップをそれぞれの目の前に配膳した。

スルーされてちょっと拗ねていたローゼルも、さりげなくお菓子などの軽食を用意する。


「さて、治療も終わったことだし……改めて済まなかったね。痛みは平気かい?」

「もう平気ですよ。治療ありがとうございました」

「いやいや。元はと言えばこっちの人間が負わせた傷だから……ね、ユーリ」

「は、はいっ!」


ぴしりと伸びるユーリの背。普段はユーリに甘いと噂を聞いたことがあったが、内実そんなに甘くはないのか。


「外で聞いてたけど、ちょっとやりすぎかな。エグジム君じゃなかったら死んでたよ?」

「はい……その、ごめんなさい……」


シュンとするユーリの隣に移動して、そっとその頭をなでるエリウッド。


「いいんだよ。結果死んでなかったからね」


俺はよくないよ、割と怒ってるよ? と、言いそうになったがローゼルとエマ、エリウッドの笑顔(脅迫)を受けて

しっかりと沈黙する。処世術は大事だ。


「今度から手加減を覚えようね。半殺しくらいに留めなくちゃ」

「はい、お兄様……」


そもそも武力ではない。まず言葉とか、色々あるだろう。


「半分生かすようにいたしますわ!」

「うん、そうそう。その意気だよユーリ。大丈夫、喋れさえすれば後はやるからね」

「喋れればいいのですね、分かりましてわ!」


いや、その教育はおかしいからね?

よっぽど言いたかったが三人の笑顔が以下略。

結局は何も話せないね。処世術大事。

ただ付き合いを考え直してもいいでしょうか?


新事実その三。エルフィン家、脳筋傾向だった……。








ここまでお読みいただきありがとうございます!

3連休で書きたかったけど、何故か多忙!

いいのか仕事ばりになってたぞ自動車運転時間…


今後何とか2日一回ペースは維持していきたいです。というわけで次回は3/24の8:00予定です!

なんとか、書き上げるっ!!


評価、ブクマ、励みになるのでよろしくお願いします!













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