第37話 新商品……これどうよ?

「おぉ……」


柄を両手で持って左右に開き、シャキンシャキンと開閉させてみる。うん、すごく切れそう。

刀剣に類する使い方をできるようにするためか、通常は内側にしか刃がついていないハサミの

外側にまで刃が研がれている。

これなら普通に剣としての使い方もできそうだ。

全く、とんだキワモノ武器を作ったものである。


「ほう、見とれて言葉すら出てこないか。会心の出来だろう」

「最高です」


ガシッと漢と漢の熱い握手が交わされた。


「ちょっと試しても?」

「お前の武器だ。どんどん試せ」


ならお言葉に甘えて……と、取り出したるは一枚の革素材。

そう、ロックリザードの端材である。

どこか現地での補修が必要になった時のことを考えて幾つか持ってきていたものの一つだ。

エグジムはそれを暫定・バトルシザーの上に乗せる。

武器の名前は後でレミとミーファにでも相談しよう。あとついでに親父にでも。


「よし、と、おお!?」


ロックリザードの革は防刃性があり、強度と粘りに優れた素材である。

元来は地中や狭い洞窟など傷の絶えない環境下で生き残るために生得したもので、ガンドの作業着に

採用したことからも分かるように、その性能は非常に高い。

それこそ加工の何が一番苦労したかと言われると間違いなく「素材の切り出し」と答えるくらいには苦労した。

裁ちハサミの限界を知った出来事と言えるだろう。

少し切るのにどれだけ大変だったか……。おかげでハサミが一本ガタが来てしまったので、修理依頼を後ほど

頼む予定だったりする。

生半可なものでは切れないのだ。

しかし、このバトルシザーは違ったようだ。

開いた刃に乗っけた瞬間、若干沈み込んでしまった。まだ閉じてもいないのに。

横から見ると既に少し切込みが入っている。

もうこれだけでも合格だが……せっかくだから行ってみようとハサミを閉じ……。

覚悟していた抵抗も何もなく、スルリと刃は閉じてしまった。

一瞬遅れてテーブルに落下する革が二枚。


「え、これ切れたの?」


重ねて言う。耐刃性があるのだ。切るのは苦労する物のはずなのだ。

それがまるで紙切れを切るかの如くあっさりと両断。


「見たまんまだ。全力で研ぎ上げたからな。しばらくは切れ味が落ちることも無いはずだぜ」

「何てものを作ってくれたんだ……」


これは切れすぎて慣れないと自分自身も切ってしまいそうだ。今までの裁ちばさみと同じと思ってはいけない。

現地で魔物の素材を、革素材を! 回収できると思い浮かれつつあったが、本来は素材ではなくまだ生きている

魔物と戦うことを想定した武器なのだ。きっと。

どんなに加工が楽しみになる切れ味をしていようとも、これは変わらない。武器なのだ。

となると、とりあえずは……。


「これと同じ切れ味のを二つ、追加注文したいです。あ、サイズは普通のハサミと同じで。外側の刃は抜きで」


作業専用も確保することからだ。

ガンドはきょとんとした後、笑って請け負ってくれた。

よし、これで革製品もしっかりと加工できるぞ!


「一本はビリーム用か?」

「あんた、そういうのは気が付いても言わない! デリケートな歳なんだから」

「あでっ、叩くなよダーナ……」

「知らないよ! んでエグジム、そっちの包みはなんだい?」

「あ、こっち? これは新商品の紹介」

「いでで……新商品?」

「うん、これよ」


切れすぎるハサミは鞘にしまって一端壁に立てかける。

そして空いたスペースに一枚の作業着を広げた。

エグジム新作の「ツナギ」である。

その見慣れない姿にガンド夫婦は興味津々と食いついた。


「おいこれ、上着とズボンが一体になっているのか」

「前のスリットから体ごと入れて着るみたいだね……ロックリザードの革と普通の布を合わせて

 いて動きやすそうでいいね。で、なんで繋がってるんだい?」

「これはね……」


ツナギの特筆すべき点は「上下の衣服の境が無い」ことである。

これは境目部分からの汚れの侵入を防ぐことができるし、しっかりと肌を守るので

万一のけがのリスクを減らすことに繋がる。更に特に固い場所を選んで強化することにより

動きやすさと身軽さを両立できている。

さらに上着の端が遊ばないので、作業時のふとした時に邪魔になるような事が無いのも利点だ。


「なるほどな……でも着るときが面倒だな」

「そそ。難点は脱ぎ着のしにくさと、熱をどうしても貯めやすい事かな」

「んーそれじゃウチには向かんな。鍛冶場は灼熱だ。気軽に上が脱げないのは痛い」


鍛冶は熱との戦いだ。熱を甘く見たら死すら見えてくる。

ガンドとて熱中症でぶっ倒れたことなど一度や二度ではない。

保護も必要だが放熱も必要な環境で、上着のみ脱ぐことが出来ないのは死活問題だった。


「そうかぁ……それなら向きそうな場所しらない?」

「この作業着が向きそうなねぇ……お、そうだ。大工とかどうよ。動きやすくて安全な服は

欲しがるかもしれないぜ?」

「他には汚れにくいってなら清掃の仕事されてる人とか、馬丁とかも良いかもね」

「なるほど……うん、今度持ち込んでみる! ありがと!」

「いいよ。私からも紹介しようかい? ココの近くの職人はみんな知り合いだからね」


ダーナが軽くウインクしてくれた。


「え! それは有難い!」

「任せな。今度また連絡するね」

「はいっ!」


これはウカウカしてられない。

ガンドと商品の物々交換をし、折角だからとガンドがサービスで付けてくれたベルトに剣(ハサミ?)をセットしてガンド武器屋を出る。

手を振ってくれるダーナへと振り返し、表通りへと出ると既に日が高くなっているのにエグジムは驚いた。

結構早めに来たはずなので、それだけ話し込んでいたことになる。


「帰って昼飯あったかな……」


気が付かなかったとはいえ、昼時までお邪魔して悪かったなと思いつつ商店街を中心地に向けて歩き、途中の八百屋でトマトを数個購入する。

ロックリザードの肉はまだまだあるので、そのひき肉部分を使ってトマトパスタというのもアリだろう。


「レミたちもいるんだし、はやく帰って飯作らないと……ただいまー」


ガンド武器店から歩いて暫くかかり、自宅店舗に到着したエグジム。

燃え尽きたのか、ビリームが入り口近くの席で魂を彼方に飛ばしていた。


「おい、親父。そんなに忙しかったのか?」

「ふっ、大したことない。ちょっと飛び入りが三件あって、うち二件が即時修理依頼だっただけさ」

「わかった。休んでてくれ」


きっとやり切ったのだろう。

父親はそっとしておくことにし、レミたちに店を見てもらいつつ昼食でも作ろうと裏方にある

キッチンに立った時、ちょうど外を掃除していたミーファがエグジムに一通の手紙を渡してきた。


「ほい。なんか身なりのいい男性の方が渡してくださいって置いてったよ」

「ん? お客さんかな・・・・・え」


上品質な紙で折られた封筒に達筆な字で「エグジム君へ」と書かれており、少し厚みがある。

手紙は封蝋で閉じられており、何とはなしにその文様を見ると少しほほを引きつらせた。


「ん、どしたの?」

「いや大丈夫。この町のトップさんからの手紙だよ」

「いや大丈夫じゃなくない!?」


大声を出すミーファと何事かと駆け寄ってくるレミ。

そんな二人に心配されつつ、エグジムはエルフィン家の印が押された封筒を慎重に開封していくのであった。








ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

自分がこれがいい!って作っても実際に需要あるかは別問題って話にしたかったです。

なってましたかね?

恐らく何事にも付き纏うのかなーと思います。人の意見って大事。



次回の更新は3/16の8時予定です。

評価やブクマ、よろしくお願い申し上げます!!






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