第33話 トラブルさんご来店
「お帰りはあちらです」
「いきなりひどいね!?」
カランカランとカウベルが軽快な音を立て、ついでパタンと閉まる扉。
店内側に立っていたのはゴブリン戦以来の少女だった。
「んで、次は何と戦ってるの?」
「人を常に何かと戦っている扱いしないでもらえるかな!?」
だって会ったの戦闘中のみですもん。
腰に手を当てて不機嫌アピールする水色ショートの少女と仕立て屋少年のにらみ合い。
コートを受け取った紳士は若い少年少女の姿に微笑を浮かべ、代金を置いて優雅に退店していった。
ビリームの「また御贔屓に~」と気の抜けた挨拶が紳士の背を追っていく。
「まったく君というやつは。その調子だと接客できないよ」
「接客……客?」
「一応客のつもりだけど?」
聞いた瞬間、ジト目だったエグジムの目がにこりと細まり、右手を胸元に優雅なお辞儀を披露した。
「初のご来店、ありがとうございます。本日はどのようなものをお探しですか?」
「変わり身早いな君!?」
「ははは、何のことでしょう」
商店街に軒を連ねる商人たるもの、変わり身の1つもできないでどうする。
町人商人キャラバンに貴族etc……。
ときには獣人やドワーフエルフまで。
来店者は多岐にわたる。ゆえに対応力も相応に磨かれているのだ。
中にはトラブルも多いしこっちが責められることもある。しかし、弱みを見せたら終わりだ。
丁寧に、しかし堂々と。店を守りつつ客との付き合いを継続する。
商店者には「図太さ」が必要不可欠なのだ。
たとえ今までの認識が「トラブルを持ち込む印象の少女」であろうとも、客だというのならば、そのように対応してみせよう。
「まったく……にしても本当に仕立て屋やってたのだね。てっきり傭兵かと思った」
「いえ、父の代から仕立て屋ですよ」
「あと敬語やめて。今更じゃないかい?」
「そういうわけには」
「やめて」
強く言われたわけではない、が……その視線が有無を言わせない。
「はぁ、分かったよ。これでいい?」
「よろしい」
「最近の貴族様は敬語が嫌いなのかな……まいいや、んで、今日の探し物は?」
「えっと、コレなんだけども」
差し出してきたのは一着の制服。少し厚手の生地が使われており、そう何度も洗濯するような作りではない。
おそらく普段着る制服の上に羽織る上着のような役割なのだろう。肩の部分に魔法学校の校章が輝いている。
「君ならわかるでしょ? トロールにしろゴブリンにしろ、最近荒事が多いんだ。……やめろそんな目で見るな。ごほん……だから制服の様でいながら防具としても、しっかり固めたほうがいいかと思って」
「つまりこの上着を強化しろと?」
「話が早いね。しっかり強化したいけど難しいなら要所だけでいい、頼めるかな?」
上着の要所といえば関節部とボタンの留め具部分。
つまり稼働が多いところはそれだけ劣化が早くなる。
しかし今回求められているのは防具としての性能。
「普段荒事するときは、どのような立ち回りを?」
「基本は結界術。必要なら格闘もするけど、そんなに得手ではないかな」
となれば手指のカバーは必要ない。激しい動きが無いならば関節部の部分強化も必要ないだろう。
必要になってくるのは全体的な防御能力か。
「身体能力に自信は?」
「魔力で多少補強しているから、それなりにはあるよ」
「なら、コレとか持てます?」
と言って棚から取り出したのは、ひと抱えの鞣した皮。
色合いは黒に近いグレーであり、皮特有の光沢は少なく、代わりにどこかフワリとした触感がある。
「んー軽くもないけど、そんなに重いとも感じないね」
「なるほど。予算は?」
「1着金貨2枚でどう?」
ちなみに金貨1枚は銀貨10枚に相当する。
銀貨1枚は平民の一般家庭が7日は暮らしていける金額となる。
服は材料の布がまず安くはなく、加工にも手間暇がかかるため、それだけでひと財産だ。穴が開いてもボロボロになっても着る人は多い。
実際『猫のひげ』来店者の半分は既存の服の修復依頼だ。
しかし、それにしたって1着の改造費に金貨2枚はかけすぎだ。
これなら色々とできてしまう。それこそ、改造なんてみみっちいこと言わずに……
「わかった。んじゃ採寸しよう」
エグジムには基本、妥協はない。
「ふーん、仕上がりは3日後ね……」
あの後、上半身の採寸をされたのちに幾つかの質問に答え、フェリムは家路についていた。
普段寒い時の上着として使っているトッパーコートは店に置いてきた。
「どのように仕上げてくれるかな」
ここ一連の騒動。そのいずれにも関わっている仕立て屋の少年。これは一度接触する必要があると
フェリムは考えた。生徒会の仕事でもあり、また身内の関わる仕事でもある。
犯人のめぼしはついているものの、それは現在学園から失踪しており、自分の姉が行方を追っている。
姉に任せておけばある程度は安心だろう……と、そう思う自分もいるが、それとは別に「できる対策はしておきたい」と思う自分もいた。また自分も学園の風紀を守る役目につく以上、何かやりたいという職務意識もある。
そのうえで今回の接触だ。
今回の「犯人」は、言ってしまえば貴族至上主義の選民思想者。そのくせいて自分を評価されない時間が長すぎた劣等感の塊でもある。
そんな奴が、よりによって「無名の平民男子にいいように計画を妨害された」のだ。
どこで今後、標的になってもおかしくはない。
学園の生徒ではないが、それでも学園関係者の犯罪に巻き込まれそうであるなら放置はできない。
彼には接点を作っておき、何かあれば対応できる状況を作らなくてはならない。
加えて個人的な興味もある。
自分を庇った、自分を守った、そして共闘した。
完全に独流だろう魔法を駆使し、粗削りながらも自分を並び困難を乗り越えた。
結界術の使い手として、守ることはあれど、守られる経験など殆どなかった自分をだ。
「本当に生徒として後輩として、学園に入ってくれないだろうか」
生徒会で、風紀委員として、期待の後輩と一緒に活動する自分を少しだけ想像し、水色髪の少女は活気あふれる商店街を鼻歌交じりに歩いていった。
ここまでお読みいただきありがとうございます!
最近……というには置かれた話題ですが、ウマ娘のZONE缶が話題ですね。
みんな上手いこと切り抜いて飾ってる写真がよくアップされてて凄いなーって思いつつ……
自分も切り取った上でレジンに封入してみました!
なんかレリーフみたいになって満足(笑)
最初に切り取った人凄いですよね。
次回更新は3/8の8:00予定です!
よろしくお願い申し上げます。
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