第18話 お迎え来る
「んで、素材の持ち帰りは皮と爪、骨の一部。残りは売却だな」
「それでお願いします」
解体物が置いてある冷暗所に連れ立って入ったエグジムたちは、そこで山と積まれた生肉と、折りたたまれた皮、鉄箱に分けて入れられた骨と爪、岩塊。その他細々した解体物を目の前にして商談していた。
「といっても皮も半量は売却か、助かるよ。最近あんまりいい魔物を狩ってきてくれる傭兵いなくてね」
手元のバインダーにすらすらと書き込み、部下に指示して素材を分別するバロメッサ。筋骨隆々の男たちを顎で使う少女の図だが、不思議と違和感はない。この場の主としての空気が出来上がっている証だろう。
「内臓は……半分はミンチだったな。いるかい?」
「買取って、できます?」
魔物の内臓は魔力が豊富であり、その量は人間にとって毒となりうる。下処理を行い魔力を薄めれば家畜の内臓より余程うま味が強い食材となるのだが、その下処理は専門の料理人が行うようなもので一般人には荷が重い。加えて状態が悪いとなれば仕立て屋にしか過ぎないエグジムには手に負えない。
「ユーリはどうする? 伯爵家となれば処理できる料理人もいるんじゃないかい?」
「そうですわね……」
ユーリは少し考えるそぶりを見せた後、エグジムのほうを見てニコリと笑った。
「では無事な部分とミンチになった部分、半分ずつ頂けます? 受け取りは屋敷に配送で、送料はお支払いいたしますわ」
「あいよ。宅配代は……まあ他の素材の売却額から引いとけばいいか」
「あら、そうですの? ではそれで」
ロックリザードの素材売却額はエグジムとユーリで折半することになっている。ゴブリンの討伐証明に関してはミーファとレミで全取り、駆け出しにとってはそこそこに良い収入になるらしい。ロックリザードの方はかえって迷惑かけてしまったからと辞退された。
そんな彼女たちはゴブリンの討伐賞金が入った布袋を大事に懐に仕舞っている。どうやら査定額は決まっているらしく、解体している最中に手続きは完了。事務から託された報酬を解体所職員経由で受け取っていたようだ。今晩は何を食べよう、久しぶりに清拭ではなく浴場で入浴できるかなど楽しそうに話している。
「んじゃ買取分の査定するから、ちょいと待ちな」
そう言って二人のマッチョを連れて小部屋に入るバロメッサを見送る。査定はそんなに時間はかからないとのことだ。先に引き渡してもらった素材を纏めている間に終わると言われたので待つことに。
解体所は血なまぐさいからと、待合室に移動した一行だったが、そこには額に青筋を浮かべて立っている執事さんが待ち構えていた。
ユーリが僅かに後ずさる。紳士が一歩、踏み出す。
「これはこれは、エグジム様先ほどぶりです。いや、ついあの後長居してしまいましたよ。私も僭越ながら私服を注文させていただきましたので、よろしくお願いいたします。それとクレイ、正確な職務遂行ご苦労様です。おかげで足取りが掴めました」
「あ、はい。ありがとうございます……」
「はっ、恐縮です」
本当は笑顔で対応すべき場面だが、どうも声が出てこない。
クレイ何とか敬礼を返したといった体だ。
紳士の優しそうでいて、その実まったく笑っていない目が言葉を封じてくる。
「それで……ユーリお嬢様」
隣でビクッとユーリの肩と言わず全身が跳ね上がる。
よく見るとシューインの背後に二人ほど、年若い女性が帯剣したうえで直立不動で控えていた。
シューインが背後の二人に一瞬目をやり、続ける。
「この二人、お嬢様付きの護衛のはずですが、どうして私の後ろにいるのでしょうね」
「ええと、それはあれよ、はぐれちゃったのよ。人混みが凄くて」
「ほほう、それはまた、なんとも人が多かったのでしょうな。所で知っておりますかユーリお嬢様。先日の入学式の反動か、本日の人通りは平素より少ない様ですよ?」
「えーと、それはその」
「加えて彼女らはこの町の出身騎士です。余程の人混みであっても見失いはしませんよ。ええ、人混みだけが原因であれば」
ニッコリと微笑むシューイン。冷や汗流しながら笑顔を返すユーリ。やれやれとため息をつくクレイ。あわあわするミーファとレミ。
「お嬢様、説明していただけますよね?」
「えーと、その、えと」
視線をさ迷わせ、エグジムにロックオン。「助けなさい!」とのアイコンタクトを「無理ですご武運をお祈りします」のジェスチャーで返す。ユーリの顔が白くなる。
そんな挙動不審お嬢様の手を執事の上品な手袋に包まれた手が捕獲。女性騎士二人が流れるような動作でお嬢様のサイドを固めた。
穏やかではない展開に、ギルドの談話スペースで油を売っていた傭兵たちがざわつきだす。荒事には慣れているためか、好奇心の色が強い。
「ではお嬢様、お話を聞かせてもらいます。ご安心を、お嬢様のお好きな紅茶を用意いたしますので、ゆっくりと、じっくりと聞かせて頂きましょう」
「今度は逃がしません」
「抵抗はお勧めしませんよ」
伯爵令嬢の迎えというより、犯罪者の護送が的確か。
前にシューイン、左右に女騎士と半包囲で連れていかれるユーリは最後までエグジムに振り返って助けを求めていた。
もちろん、エグジムは苦笑いで手を振り見送っていた。
「おーい、査定終わったぞ……ん、妙な雰囲気だな。それにユーリはどうした、帰ったのか?」
どうにも微妙な雰囲気になったギルド待合室で、不思議そうに首をかしげるバロメッサ。この時ばかりは彼女の外見年齢相応の可愛らしい仕草だった。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
仕事トラブル続きでメンタル瀕死な作者です。
人に何か依頼するときは、最初なら無茶振りでもいい……修正効くから。
後出しはホント、NGでお願いします……
しかも二度三度も変更しないでください……
以上、作者心の嘆きでした。
次回更新は瀕死ですが2/6に頑張ります。
どうかお楽しみください……
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