第7話 運命の決戦

全員が顔を連ねた会議室に、緊張が走っていた。

少しの沈黙の後、佐川が口を開いた。


佐川『先に情報の知れ渡ったシノシノラバー様からプレゼンを行うこととします。よろしいですね?』

佐川はもっともらしい理由をつけ、自分の思い通りにプレゼンを仕切った。


栗林『仕方ありませんね。ではシノシノラバー様、よろしくおねがいします。』

反論できない栗林は、応ずることしかできなかった。



内山『はい。それでは。』

内山がハキハキと答える。



内山『弊社の提案する次世代タイヤについてご説明いたします…………当社は栗林繊維様が開発したナノテクノロジーカーボンファイバーを使用した強靭な繊維を組み込み…………。


滝沢・高中『?!』

滝沢、高中の両名は驚きの表情で内山のプレゼンを聞く。



内山『従来のタイヤと比べ剛性が従来のタイヤに比べ………』



滝沢『これは…どうなってるの?』

強烈な違和感に冷や汗をかく滝沢。


内山『次世代タイヤ装着時、車両の燃料消費率にあっては…………』

的確、また明瞭な説明でスムーズに内山のプレゼンが続いていく。



高中『こんなことが…』

いつもお調子者の高中もことの異様さに気づき、恐れおののいた。

内山『以上が弊社シノシノラバーからのプレゼン内容になります。』

完璧な内山のプレゼンが、誰もが納得する形で終了した。



鹿島『どうなっている…うちが用意したプレゼン内容と全く同じじゃないか…………。』

滝沢と高中が覚えた強烈な違和感とはこれである。


自分たちが連日徹夜で考えたプレゼン内容が、いま敵の口から披露されたのである。

全く同じ内容を先に披露されたランディア陣営のプレゼンは、凄惨なものとなった。



栗林『万事休すか………鹿島さん、残念だ。』

鹿島を信じていた栗林であったが、その栗林ですらこのプレゼン内容の差には口を出すことができなかった。



佐川『比べるまでもありませんね。同様のプレゼン内容に、10倍の差の契約金。シノシノタイヤ様で決まりだ。ではこの結果を踏まえ、明日役員会議を執り行う!』

嬉しそうに佐川が口を開く。

この結果に、反論できる者はいなかった。



希望は、儚くも崩れ去った。



栗林繊維大会議室の外から、なにやら声が聞こえる。


…待ってください!

………今は会議中ですので!あっ!

大会議室の扉が勢いよく開いた。


栗林繊維社員の制止を払いのけ、現れたのは藤木だった。


藤木『重要なプレゼンの最中、申し訳ございません。』

夏木、狩野が目を合わせ、困惑している。


佐川『何者だ貴様は。今は重要なプレゼンの最中だぞ!』

突然大事な場に入ってきた藤木を、佐川は怒鳴りつけた。


藤木『恐れ入ります。鹿島社長に急ぎでお届けしなければならないものがございまして。』

藤木はカバンの中から鹿島への届け物を取り出した。


佐川『なんだこれは?SDカードと、…書類?こんなもののために他社の会議室に無理矢理入り込んだのか!おい警備員!つまみだせ!』

佐川の怒りは収まらない。あと数秒あれば、契約は自分の思うとおりに運んだからだ。


藤木『待ってください。中身を見てからでも遅くないと思います。』

藤木は怒りを見せる佐川に動じることなく、全員に中身を見るよう促した。


佐川『一体なんだというのだ!』

佐川は皆が内容を気にしている様子に気づき、渋々藤木の要求を受けいれた。

プロジェクターがつながるノートパソコンに、SDカードが挿入された。


広いロールスクリーンに、映像が映し出された。

佐川『これは…?なんの映像だ…?』

部屋のようだが、佐川は知らない部屋である。


映し出されたのはランディアの社長室だった。


悟られないように夏木にアイコンタクトを送る狩野。

夏木は小さく首を横に振った。


高中『あれは…俺が社長に提出したプレゼンのデータが入ったUSBメモリだ。』

高中は社長のデスクの上に置いてあるUSBメモリをみつけ、思わず口に出す。


しばらくすると社長室に入る人影が見えてきた。

人影はデータをコピーし、別のUSBメモリに移していた。

その姿は長い髪を揺らし手際よく作業して立ち去っていった、鹿島社長の秘書である夏木であった。

夏木は動揺を隠すことができず、思わず声を上げた。

夏木『わたしはこんなことしてない!作り物か何かでしょう?!それにこれを持ち出したからってシノシノラバーさんに渡したことにはならないわ!こんなの証拠にならない!』


狩野もフォローに回る。

狩野『そうね。これがなんだというのかしら。私たちは半年も前からこの次世代タイヤについて構想を立てていたのよ。』

発言をした後、自分がフォローしたことで夏木とのつながりを疑われると気づき、失敗したと表情を曇らせた。


藤木『半年前……ね。』

藤木が、ニヤリと笑った。

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