掌編小説・『平成』

夢美瑠瑠

掌編小説・『平成』

(これは、2020年の「今日は平成スタートの日」にアメブロに投稿したものです)



掌編小説・『平成』



議長「えー新しい元号の選定にあたっては、まず平明な字であること、S、M、K、等の頭文字でないこと、古典等に立派な来歴があること・・・等々で三つ候補が選ばれております。」


「何ですか?」


「平成。これは漢籍に典拠があって、「内、平らか成りて、外、成る、」そういう言葉があります。

 で、修文。これはSなんですが、いい元号であれば必ずしもこだわらない、そういう趣旨で選ばれております。

 三つめが正化。これもSなんですが、同様の趣旨です。」


「修文と正化の典拠は?」


「修文は、学問や技芸を修めること。正化は名君が連なって世が正しくなることですね。乱れた世の中が正しく変われば・・・という願いも籠っています。」


「3つともそれぞれ由緒正しい感じだけど・・・敢えて一つというと?」


「これは“きわめて見識の高い人々”の集まりです。ご自由に論議を。」


「とっかかりが分からないなあ。普通に頭文字“S”でないのを選んだ、んじゃあ、我々招集された意味が無いし・・・議論したという記録が残らないとな、か?」


「議事の抄録はすぐ破棄されます。外聞とか気にせずに」


「じゃあ消去法で行くか・・・僕はこの「修文」の「文」がちょっとアナクロだと思うんだ。学問や技芸を修めるというのは所詮個人のレベルの話だろ?今は学問よりもむしろ社会全体の生産性というか・・・国家レベルでマクロな視点を持って全体を俯瞰するような、そういうコンセンサスが年号としてあったほうがいいと思う。」


「そうですね。何だかせせこましいよな。」


「文学ですか・・・今時文学なんてね、書生っぽだのの高等遊民を彷彿させるよ」


「笑」、「笑」


「正化というのもね、年号としてインパクトに欠けないかね?新しい時代が来るというのに、何だかこの字はさあ、江戸時代っぽいよな」


「字は単純だからいいんですけどね。とにかく修文はだめだ。」


「時代にそぐわない」


「文学反対」


「今のは誰の声だ?」


「文学に挫折した法学の教授の声です」


「なんだ、君もか。おれも文学に志したんだが挫折して・・・」


「まあまあその話は改めてやってください」


「今は年号だよな。じゃあアップツーデイトで、一応立派な典拠があって、頭文字も重なっていないから・・・平成か?」


「何だか世の中の平社員が嫌な顔しそうですね。「ヒラになる」なんて・・・」


「だからいいんじゃないか。ヒラの人は自分のことと思われないようにヒラから抜け出そうと頑張る。ヒラでない人は天下泰平のヘイだと思って喜ぶ」


「ヒラなんてね。力ないです。無視しましょう。」


「では、挙手願います。「平成」案に賛成の方・・・」


全員挙手する。


「全会一致で「平成」に決定しました・・・」


拍手。


(まあ裏事情はこれとあんまり変わるまい)



<終>




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