第23話 内堀町(3)

蘇芳すおうの側近?こんな奴だったっけ?もっとおじさん、いやおじいさんだったような気が……」


 月白がまじまじと目の前の青年を観察する。年齢は月白よりも年上に見える。落ち着いた深い赤色の瞳が印象的だった。同じ色の長髪は月白と同じように下方で団子状にまとめている。


「ああ。貴女様の知る側近は蘇芳様に処断されました。何でも金品を受け取って国外に赤ノあかのくにの情報を漏らしていたんです。重罪として火炙ひあぶりの刑にされました……。そこで新しく登用されたのが私です」


 深緋こきあけは困ったような表情で月白に話をした。火炙りという言葉に珊瑚さんごは固まる。


「……そっか。じゃあ宜しく」


 月白は深緋から珊瑚に視線を移す。


「珊瑚。案内役としての役割はここで終わりだ」

「え……?」


 珊瑚が表情を強張らせたまま月白と目を合わせる。


「お前の器量ならばどこでも生きていけるだろう。正直、今の私に関わると命が危ない。お前は自由に生きたがっていたろ。縁を切るなら今だ」


 その言葉を聞いて珊瑚は肩を震わせた。


「……冗談じゃねえ!ここまでついて来たんだ。最後まで見届けるさ。まだ問題は何も解決しちゃいねえんだから。それに俺は他の世界を見たいんだ」


 月白は珊瑚の熱い言葉を聞いてふっと笑った。灰青は「まだ付いてくるのか」と言わんばかりに大きなため息を吐く。


「それでは皆様、私の後に付いてきてください」


 深緋は穏やかな笑みを浮かべて言った。

 大通りをひたすら赤城に向かって進んでいく。


「蘇芳は……。どんな王だと思う?」


 隣を歩く深緋に月白が問いかける。少し考えた後で深緋は口を開いた。


「恐ろしい王だと思います。染力せんりょくが強いこともそうですが人を従わせるのにこれほど長けているお方もいないでしょう。先王の腐敗した政治を力で両断したのは見事でしたがそれだけでは変わらなかった。むしろ他の憎しみを生み出す原因となってしまったのです。それほどまでに先王が築き上げた腐敗が根深かった。王に心酔する者もいれば恐れを抱いて離反していく者もいます」

「……そっか」


 月白は地面に視線を落とした。


「王から話は伺いました。月白様、お命を狙われているそうですね」


 深緋は小声で話す。


「ああ。そうなんだ。だから暫く赤城で匿って欲しくてな。なるべくすぐに敵を見極めるつもり」

「承知しました。王にも了承を得ていますので安心してお過ごしください」

「心強い!そう言えば赤ノ国には巨大な書物庫があったな?そこを借りても?」


 月白が目を輝かせて深緋に聞いた。赤ノ国には巨大な書庫がある。赤ノ国の歴史やまつりごとの記録、彩ノ大陸さいのたいりくの歴史が書かれた物が数多く収められているのだ。


「ええ。勿論、関係者が付いていれば書物の閲覧も可能です」

「月白様……。遊びに来たのではないのですよ」


 灰青はいあおの苦言に月白は腕組をして不機嫌そうな表情を浮かべる。


「私だって遊びのつもりはないぞ。これもれっきとした問題解決のための行動だ」


 その様子を見て深緋はくすっと笑った。


「是非おいでください。私は赤ノ国の歴史を記述する者もいるので話を聞くこともできますよ」


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