その152、授業参観を受けよう(5)

 声の主が校庭に駆け込んでくる。

 慌てて来たのだろう、スーツはよれよれでネクタイも盛大に歪んでいる。

「楠木!」

 楠木……ということはてっ子のお父さん? と思う間もなく、その周りを父親たちがぐるり囲んだ。

「お前、どうしたんだ!」

「今日は大事なプレゼンがあるんじゃなかったのか?」

 がくり膝をついて、てっ子パパは言った。

「先生、俺やっぱ……授業参観がしたいです」

 ……先生?

 その肩に、ぽん、と手が置かれた。ミカパパだ。二人が頷き合う。途端に大音量の歓声。

 ミカちゃんと目を見合わせ、席に戻る。これ以上付き合っていたら黒ごまチキンが冷めてしまう。

 見ると、てっ子もすでに席に戻って黙々と給食を口に運んでいた。……ドンマイ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る