その116、買い物に行こう(10)

 立ち去る父の背中は哀愁に包まれていた。

 散々責め立てられた上すごすご帰るのだ、それも仕方あるまい。ちょっとだけ同情の念が湧く。

 おじいさんが呟いた。

「悪は去った」

 うん、やっぱりかわいそうだな。ちょっとだけ。

 ぽんと肩に手が乗る。振り仰ぐと、おばさんが微笑んでいた。レジは?

「いいお父さんね」

「そうでもないです」

 おばさんが豪快に笑った。つられて、私も笑う。とりあえず――今日のところはこれ以上責めないであげようかな。

 と、唐突に鋭い音が響き渡った。見ると、カッコーが背中を押さえてしかめっ面している。その横でお姉さんが私に手を振った。

「またね」

 さっそうと踵を返すお姉さん。たなびくスカート。

 ……か、かっこいい。

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