その114、買い物に行こう(8)

 ――私は気にしてないけど。

 その一言で心が折れた。

 レジの一件から俺の気持ちは一目瞭然。自分に気があるか牧野が確認したのも当然だろう。

 結果、これだ。……もう、帰りたい。帰ったら一生昆虫図鑑眺めて暮らそう。

「お父さん、何してんの!」

 牧野がひょっとこに詰め寄っている。

「ち、違う、私は親切おじさんだ」

 そう言うと、男は俺が持つエコバッグを指差した。

「重いだろう、私が持ってあげるよ。君はもう帰りなさい」

 あ、はい。差し出そうとした手は、けれど牧野に遮られた。

「お父さん、知らない人に声掛けられたら叫べって言ってたけど」

「あの時はあの時だ」

 語るに落ちている。と、ふいによく知る声が高らかに響いた。

「そっこまでだ!」

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