その84、絵を選ぼう

「うーむ」

 父の呻き声がこだまする。

 居間に飾る絵の選考を始めて、かれこれ二時間。これだけは嫌ってのがあったら教えてくれ――そう言われ、私も臨席している。初めは「全部嫌なんだけど」とこぼしていたのだけど。

「あ、なつかしい」

 声をあげる。たしか、二年の夏休みの絵だ。腕前は今と変わらず、出来も惨澹たるもの。だけど。

 意外にも、昔の絵を見るのは苦痛ではなかった。もっと言えば、楽しかった。当時の思い出とともに、楽しんで描いたのが伝わってくる。

 と、父と目が合った。

「な、すごくいいだろ?」

「すごくは言い過ぎ」

 でも――そんなに悪くもないかも。絵を一枚、手に取る。

「……この絵とか、どうかな?」

 父がうれしそうに笑った。

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