その36、鬼を倒そう(6)

「鬼は外!」

 放物線を描く豆。それらを華麗にかわしていくなまはげ。狭い家の中とは思えない身のこなしだ。

 だが残弾はまだまだある。私は手の平いっぱいに豆を握った。

 ――心の中から鬼を追い払おう。

 父の言葉だ。父を赤鬼に見立て、退治しようと。実際はなまはげだけど。

 と、破裂音と共にあらぬ速度で豆が飛んできた。見ると、母が玩具のマシンガンを構えている。

「私も参戦させて」

「ちょ、おま」

 慌てふためく父を勢い込んで二人で攻め立てる。響き渡る怒号。

 父が笑って。

 母も笑って。

 私は――なぜだか涙が出た。

「泣ぐ子はいねーが」

「いねーよ」

 豆を目いっぱい放る。

 私は小さな女の子にすぎないけれど。

 きっと前より、少しだけ大人になった。

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