その19 お雑煮を食べよう

「うっ」

 突然うめき声を上げた父が、喉を掻きむしる。

 が、私と母は素知らぬ顔でおせちを口に運ぶ。

 餅を食べる。喉に詰まったふりをする。最後に「うまい」のひと言。父の十八番、新春の風物詩だ。

 静観していると、声が一際高くなった。ちょっと不安になる。あ、むせた。目に涙を浮かべ、咳き込みながらも父は言った。

「う、うまい」

 やり切りおった。

「ねえ、本当に詰まった時に分かんなくなるよ」

「その時はサインを送るさ」

 手を広げる。親指を折る。親指を握り込む。SOSのハンドサイン。いや、なぜそうまでして。

「心配になるから、もうやめて」

「ごめんなさい」

 ……たぶん来年もやるんだろうな。諦めの境地で私は自分のお雑煮に箸をつけた。

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