未来の「思い出」

江戸川ナオ

第1話「思い出」

 この世界は「思い出」に満ちている。どんな人にも、どんな場所にもそれはある。僕はそんな世界を嫌っていた。彼女に出会うまでは。いや、彼女を守ろうと決めたあの日までは。


 「なあ京介、夏休みどうするよ。きっと俺たちだけだぜ。予定無いの。」

高2の夏休みが来ようとしていた頃、僕の唯一の友達、健はそう言い放った。

「夏休みはゲームでもして過ごすよ。」

きっと彼は僕を気遣って誘ってくれているのだ。僕は幼い頃に両親を事故で無くしている。その寂しさから逃れるためであろうか、僕は人の「思い出」が見えるようになっていた。そしてこの健の「思い出」を見ると毎年夏休みは家族旅行やクラスの明るい組の人たちと遊んだりしている。

「なんだよつまんないなー、無理やりにでも誘いに行くから覚悟しとけよな。」

そう笑い飛ばすと彼は運動場に行き、明るい組の人たちとサッカーを始めた。たまたま運動場が見える席に座っていたので眺めていると様々な思い出がそれぞれの頭上に浮かぶ中、靄がかかって見えない人を見つけた。それはいわゆる明るい組の中心核の瀧川向日葵だった。あんな明るい人に見えないなんて珍しいなと思いながらも、あちら側の人たちと関わるのは面倒なので無視することにした。

 その日も無事に終わりもちろん僕は部活に入っていないのでいつものように急ぎ足で帰ろうとしていると校舎の裏の方に瀧川さんが入っていくのが見えた。どうでもいいはずなのになぜか足がそちらへ向かった。すると泣き声が聞こえてきた。覗いてみると彼女が泣いていた。

「ど、どうしたの?」

すると彼女は一瞬驚いた感じだったが

「そっちこそこんなとこで何してんのよ。」

「君がここに入っていくのが見えたからつい。」

「別に関係ないから。さっさと帰りな。」

そういうと彼女は何事もなかったかのようにいつものはちゃけた、僕にとっては少し怖い顔に戻り僕の横を通り過ぎて行った。ああやっぱり関わるんじゃなかった。そう思って家に帰った。その日は何だか気分が悪くてうまく寝付けなかった。

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