第24話 いらない子は学内カーストを駆け上がる③ ~猛牛のマリ、デレるマリ~
「終わった……。マジで終わった……」
隣でガタガタと震えているクローデさん。
"
や、やばい……っ!?
「――あなた方ですか? あんなところに楽器を置きっぱなしにした大馬鹿者は!? 誰かがつまずいて怪我をしたらどう責任を取るのですっ!?」
「――すっ、すいません……っ!!」
僕は全力で頭を下げる。
謝るしかない状況だ……。
だけどマリさんは僕の謝罪なんかには耳を貸さずに、こう言い放った。
「――どこの馬の骨か知りませんが、"
……た、退学処分っ!?!?
……床に楽器を置いただけでっ!?!?
……厳しすぎませんっ!?!?
……まだ二日目なんですけどっ!?!?
いっ、いやっ、そんなことより――!!
「……ちょ、ちょっと待ってください、生徒会長さまっ!! 床に楽器を置いたのは僕です!! クローデさんは何も関係ありませんからっ……!!」
自分のことはともかく、クローデさんには何の罪もない……。
"僕のせいで退学"なんてことになったら、いくらなんでも申し訳なさすぎる……。
「……お願いします、生徒会長さま!! 僕はどうなっても構いませんから!! だけど、クローデさんだけはっ……!!」
「何を言っておるのです、"
そう言って足早に教室から立ち去ろうとするマリさん。
しんと静まり返る教室。
隣で青ざめて蝋人形のように固まっているクローデさん……。
(……あぁ、なんでいつも僕はこうなるんだ――)
ここ最近ずっとだ。
いつも女性とトラブルを起こして、その度にヴァイオリンを弾いて解決しようと――
――ん?
(ヴァ、ヴァイオリン……? そ、そうだ……っ!)
そう閃いた途端、僕は慌てて楽器ケースを拾い、生徒会長の後を追った。
そして言った。
「……せ、生徒会長さまっ! 退学処分するかどうかは、僕のヴァイオリンを聴いてから決めてください……っ!」
僕がそう訴えると、マリさんは忌々しそうに振り返る。
そして舌打ちした。
「……どうしてこの私が、あなたのような三流ヴァイオリニストの演奏など聞かなければならないのです? まさか"演奏を聴けば心変わりする"とでも? どれだけ自意識過剰なんですか、あなたは?」
「ですけど、そこをなんとか――っ!」
僕はヴァイオリンを肩に乗せる。
途端に始まるバトルのフェーズ――。
【
レベル:97
TS防御度:9800/9800
AS防御度:9000/9000
【
レベル:69
TS防御度:6969/6969
AS防御度:6969/6969
【
レベル:71
TS防御度:7500/7500
AS防御度:5250/5250
……うん、昨夜の【恋に猛り狂う乙女たち】との死闘の後だからか、あんまり強く感じないな……。
ていうか問題は"何を弾くか"だけど……。
(……たのむ、【らくらくヴァイオリン】っ! ――会長の怒りを鎮めるような曲をっ!)
僕がそう念じると、半透明のウインドウにはメッセージが流れていった。
「――『怒りを鎮める曲』の検索結果。"178605件"がヒットしました。」
……おいおいこのステータス画面、検索機能までついてたのかよっ!?
それはまぁともかくとして、会長に睨まれている僕はじっくり曲を選んでいる場合じゃない……。
とりあえず一番上に書いてあった曲を演奏する。
――『タイスの瞑想曲』とかってやつだ。
「『Méditation/Thaïs』をオート演奏しますか? はい・いいえ」
迷わず「はい」を選択。
そして僕の弓が弦を擦り、左手が指板を駆け上がると――
(……ん? やけにゆっくりした曲だなぁ? まるで"草原に寝そべって青空を見上げている"というような調べだ……)
――とはいえ、テンポのわりに頻繁なポジションチェンジや連符があったりして、結構忙しい。
そして時折り繰り出される"泣きの高音"が教室内に響き渡ると――
――『OVERKILL』!!!!
――『OVERKILL』!!!!
――『OVERKILL』!!!!
【
レベル:97
TS防御度:0/9800
AS防御度:0/9000
【
レベル:69
TS防御度:0/6969
AS防御度:0/6969
【
レベル:71
TS防御度:0/7500
AS防御度:0/5250
……あっという間に生徒会長のマリさん、そしてクローデさん、クラスメイトたちのTS/AS防御度は0になっていた。
そして僕が弓を下ろすと、教室には長い静寂が広がる。
やがてその静寂は、爆発的な歓声へと変わっていった――。
「「「――うおおおおおおっっっ!!! すげえええええっっっ!!!」」」
立ち上がるクラスメイト、鳴り止まないスタンディングオベーション。
女子たちは顔を赤く染め、男子たちは目に涙を浮かべ……。
隣にいたクローデさんまで、目をひん剥いて、まるで「神を見た」と言わんばかりの大袈裟な表情で僕を見つめていた。
「……ん? どうかしましたか、クローデさん?」
「ケ、ケイ……、お、おま……、ウ、ウソだろ……っ!?!?」
……何が"ウソだろ"なのかは不明だけど、そんなことより問題は――
(さて、と……)
僕は生徒会長のマリさんの方に目を向けた。
……マリさんもまた他の女子たちと同様に顔を赤らめ、「ハァハァ」と肩で息をしている……。
(僕の演奏を聴いて、退学処分の件、考え直してくれればいいけど……)
などと考えていると――
(……ん? マリさんがこっちに近づいてきたぞ……?)
「――やっと……やっと会えましたね……救世主さま――」
「……はい?」
急に言われて、僕は目を白黒させてしまった。
――なんですか、"救世主さま"って……?
だがそんな僕の困惑をよそに、マリさんは僕の手を握り、静かにこう言ったのだった。
「――"
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