511話 魔法少女は捕えられる
皆さんこんにちは、こちらみんな大好き魔法少女美水空でございます。
今回ご紹介する
吊るされているとは思えない安定性!揺れの一つもありません!檻は根っこでできており、素晴らしい景観が一望できます。霊樹様と言っていたので、その枝だ。斬れども斬れども跡もつかない。原素も封じられ、脱走の心配もないのです。
そう、その中に私は収容されています。
じゃないんだよっ!
リポーターの真似事のためのマイクとなったステッキを叩きつけ、荒れ狂う。何故か、揺れない。
「……飯の時間だ。」
槍を持った男の精霊が、少し辿々しい恐喝声で扉を開けて睨みつける。そして、手に持った何かを投げつけてきた。大根だ。
「あの、これ生じゃ……」
それも、土がついている。とれたて新鮮なんてもんじゃない。
これ、丸齧りせいと?
「黙って食え。密猟者の分際で、生きながらえさせているだけでもありがたく思うんだ。」
人を射抜き殺さんとするとその視線を受け流し、目の前に転がる大根を見つめる。
「ばっかじゃないの、これ。」
冷めた目で見る。大根も、こんな不本意な形で食されるのは望んでいなかろう。
「せめて、下処理くらいしてあげよう。」
ステッキからナイフを取り出し、皮を剥いていく。皮をまな板がわりに、大根を輪切り、いちょう切り、半月切り、千切りといろんな形に変えてやる。
大根に可能性を見せてあげよう。そんな気持ち。
こんな意味不明な状況に陥ってからおよそ3時間。3時間前を空想し、私は苦い顔を浮かべる。
「ちょ、何よ!?」
ベールが慌てふためいた。
「神霊様……!人間の毒牙にかかってしまうとは……!皆のもの!救出するぞ!」
「「「は!」」」
森の中から多くの精霊が飛び出し、私とベールを距離を空けさせる。人神はもういない。
あのクソ神……助けのひとつくらいくれてもいいじゃん……
ギリギリと歯を噛み締める。
しかし、奇襲をかけられた私は気が緩んでいたのか足を滑らせてしまう。これは、親友だと思っていた相手が突然無視を始める感じに近い。
私は腕を引かれてしまい、そして謎の手錠を装着された。仕事が早い。
私はステータスで無理矢理殴り飛ばそうと、踏ん張る足に力を込める。と、ベールがこっちを見た。
傷つけないでくれ、と言う目だ。なんて無茶な。
「違うの、あいつは……っ。」
「気が動転してらっしゃるのですね。」
「落ち着いて、怖い思いをなされましたね。」
「…………」
あまりの向こう見ずさに閉口してしまうベール。人の話を聞かない。まるで魯鈍だ。
「確保オオオオオオ!」
「撤退、撤退!」
そうして、悲しいことに無事に確保されてしまった私。あれよあれよと言う間に、極悪犯の収容される収容所(知らんけども)に入れられてしまった。
「これどうすればいいの?」
絶賛捕縛中の私は、頭を抱えてしまう。
物理行使はベールに止められてるし、かと言ってこのままなのは癪だ。誰かに謝らせたい。土下座だ土下座。これはジャパニーズDOGEZAでもされないと割に合わない。
なんて物騒なことを考えていた。その時、トントンと低い音が。
「あんた、こっちきなさいよ。」
「あれ、私3時間しかここにいないよね?もう幻覚見え始めた……?」
「実物よ。」
ムスッとした顔で、目を鋭くした。本物のベールようだった。その羽でここまできてくれたらしい。
「で、一体これ何?説明求む。」
「ちょっと待ってなさい。ここで説明なんてわたしが嫌よ。」
「ここにいる方がよっぽど嫌だ。だからさっさと説明プリーズ。」
「ノーよ。ミュール様とエスタールを連れてくるわ。少し待ってなさい。」
「権力者パワーでなんとかしようって?」
「そうよ。」
ベールはひょっこりと出した頭を下げると、どこかへ飛んでいく。
「説明しないと原素奪うからねー!」
そうとだけ言い残しておき、長く深いため息を肺から押し出す。
こんばんは。美水空です。
本日お送りするのは突撃!今夜の晩御飯。
「飯の時間だ。」
「あのさぁ、いい加減出してくれない?馬鹿じゃないんだし上に掛け合ってみてよ。前にここきたことあるよ?神試戦出てるんですけど?」
「つまらない冗談はよせ。」
「そっちこそ冗談でしょ……」
全くもって笑えない。扉に放られたのは肉。多分、原獣の。
「え、これ生……」
本日2度目だ。
「死ぬことはない。」
「でも生じゃ……」
ガチャン。鍵閉められた。
と、言うことで今夜の晩御飯は生肉らしい。とんだ野生味溢れた夕食だ。
「なまにっくなまにっくなーまにく。」
生肉を眼前に、光のない目で生肉の歌を独唱する。体を揺らして、ゆらゆら。今夜何食べよう。
「ベール、まだかなぁ。」
せめて腹だけでも満たしたい。だから、ここはやむおえず空間魔法で外に出ようと決意を固めた。
座標座標……座標?あれ、見えない?
探せど探せど何も見えない。空間魔法そのものを忘れてしまったように、何もできない。頑張っても
うっすら、何か見えるくらい。
「霊樹、ねぇ……」
額に手を置いた。これ、詰みだ。
「ほんと、助けてよ……」
予想だにしなかった投獄に嫌気がさしながら、ベールの名を呟いた。
—————————
一方、フランベールらエスタール邸で茶を嗜んでいた。
「いや、なんでよ」
心の声が口にまで及んでしまった。
正面のソファに腰掛けた、ウェーブのかかった桜色の髪を持つ精霊は、丁寧な所作で紅茶を口へ運ぶ。背筋が伸びている。
「あの子がまたここに来たのね。それで、用事は?」
「分かってるのに聞くなんて、性格悪いわ。だから恋人の1人もできないんじゃない。」
「それは年齢のせいでしょう。」
かたん、とソーサーに置く音が響いた。静かな怒りを正確に汲み取り、ベールは口を閉ざした。
見た目にはあまり影響はない、と心で付け足す。それはそれで性格に難ありということかといえば、どちらとも言えない。
どちらかというと普段のだらしなさ……
「あんた1人じゃ頼りないから、ミュール様も一緒に助けに行くのよ。」
「随分とご執心ね。」
「パートナーだもの。当然よ。」
自信たっぷりに言い放ち、その顔にクスッと笑いを浮かべるエスタール。
「何よ。」
「あなたがへカート以外に関心を向けるのは久しぶりだから。」
「へカートは完成したからいいのよ。」
そばに控えさせた白いロボに視線を送り、頬を緩ませた。
「ミュール様との謁見は、許されたけどあんたの許可が必要なのよ。だから、ついでについてきなさい。」
「横暴よね。」
「横暴くらいがちょうどいいのよ。」
「そう。分かったわ。ちょっと待ってなさい。」
ベールはようやくという思いでソーサーにカップを静かにのせた。
あの後、事情聴取とまではいかなくとも、話を引き出された。ずるずると。しかも、真実を語っても気が動転しているだとか意味不明なことを吐いて離してくれない。
ここ最近生まれた、護衛団。やたらと物騒になってきた近年の流れを対策するために作られた、基本男の精霊の集団。その一部が、神霊である2人にももちろんついており、すこーし、ベールの周りには問題児が多い。
そのせいでこの時間だ。
魔法少女の収容先、それはかの偉大な霊樹。精霊の森は広く、存在が知られないだけで多くの村も存在する。
中央、霊神がおられる中都を都市とし、霊神が生み出したというシンボルが霊樹。神の力が宿っていると言われ、その中だけは絶対領域だという。
そこの常駐兵になんと説明したのか、魔法少女は大悪党だ。
「早くしてよ、もう……」
ベールは、小さい手で疲労の滲んだ目を覆った。
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空さん、捕まっちゃいましたね。
ちなみに今回もアドリブです。プロットに沿わない無計画な私が完結できるのかという話ではありますが、誠心誠意完結に向けて励んでいきます。
どうなるんでしょうかね。
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