510話 魔法少女は森へ赴く
「ほんと、ここどうなってるのかいくら見ても分からないよね。」
おそらく精霊の森。私は魔力の遮断されたこの空間で疑問を呈した。
「ベール分からないの?神霊になったんでしょ?」
「神霊は神じゃないのよ。そこの人神様に聞いたらどう?」
「人神の扱いに慣れてきたねベールも。」
「そりゃあどうもありがとう。」
無駄な会話で時間を潰し、長い道のりを歩んでいく。確か、あの時も結構遠かった記憶がある。
王都旅行だったし、記憶に新しいね。
『久々に
『厨二病全開で笑える』
『原獣とか出てきてと処理めんどいからベールなんとかしてくれないかな』
面倒そうにAが口にした。確かにそう思う。
「だ、そうだけど人神さん。この結界について知ってることとかない?」
「はいはい教えればいいんでしょ。」
投げやり感で頭をガシガシ掻いた。
「この結界は5重、と見せかけて6重に重なってできている数的強力結界。徐々に結界範囲を狭めて完全に魔力が潰えるまで3つ、結界内ごと移動するために1つ、隠蔽に1つ。」
「ミュール様はやっぱり凄いわ!」
「ねえ、1つ足りないけど。」
「よく気づいたね。そこの精霊は鈍感だけど。」
「だっ、誰が鈍感よ!」
プリプリ怒ってほっぺを膨らます。風船か。ヘリウムでも詰まってるのか。
「このままじゃブリ大根になるよ。」
「ぶりだいこん?」
「ブリがブリブリなるまで大根と煮る料理。」
「話戻していいかな?」
「あ、うん。」
頬をひくつかせていた。まあ、私が人神の立場だったら殴ってるだろうしその辺は心が広い。
「最後の1つ、それが霊冥結界。ただ魔力がないだけじゃ人は死なない。だから、人間の肉体を弱らせるようにできている。」
「ならなんで私と人神は大丈夫なの?」
「あんた大丈夫?人神様は神様じゃないの。」
「分からないならいいんだよ。」
生暖かい目でベールに悟らせるように語りかけた。
ベールもアレに巻き込まれてるのかな。まぁ、知らないに越したことはない。重い話は合わないしね。ここはメルヘンな精霊の棲家。
あるかもしれない悲しい未来の話はどうでもいい。
「霊神はあんななりをして1番まともなんだ。余は適当だし、ヴァルはバカだ。前龍神は詰めが甘いし、現龍神はまだ未熟だ。民を守って慎重に行動に移す。」
「褒めるねえ。まさか好きだったり?」
「するかあんな露出狂。会うたびにレンちゃんレンちゃんベタベタ触ってくるんだぞ?」
思い出すだけで虫唾が走ると言わんばかりに体をさすった。「そんなことしないわ」と言い張るベールがいるが、信憑性は薄い。
ベールって信じたものは信じる質だし。
へカートなんちゃらもその賜物でしょ。やりたいことを信じて続けた。
普通にあれ、すごいし。日本のこと知らずにミサイルとか頭いい以外言いようがない。
「複雑なことは分かんないけど、まー大体わかった。ありがと。」
「素直な人間は好きだよ。」
「うわキモ。」
「素直すぎる人間は嫌いだ。」
心の中で、なら素直になろうと決意した。例えば父親と母親がベットでナニをしていとしても「なにをしてるの?」と聞いてしまうくらいに。
それはどちらかと言うと空気が読めない奴か無神経な奴だ。
いや待て。そもそも空気って吸うものだよね。なんで我々人間は空気を読んでるんだろう。
ここにひとつ哲学が生まれた。
「あ、原獣。」
そんな哲学を豪速球で返球し、目の前に現れた原獣と目を合わせる。なんだろう。クマみたい。シロクマ。
ただし棘のついた真っ黒な目の化け物だけどね!
私パスで。そう言おうとして、人神と目があった。
「私、やるよ。」
「いや余がやろう。」
何この典型的な定型ネタ。いつの時代だよ、とツッコミをしたい気持ちを抑える。
「ならわたしがやるわ!」
「「どうぞどうぞ。」」
両手を小さい腰に当て、胸を張って言った。
引っかかったよこの子!
純粋な子だ、と濁して感想にした。
「遂に完成したへカートを見せてあげるわ!」
そう言って、露出の多い服の胸元から小さな飾りを取り出した。
「サモン、スーパーへカートモード1〈エレクトル〉!」
空を天に掲げると、呼応するように光出して姿を現していく。正しく表現するなら、形成されていく。
お、お?ん?
「行くのよ!わたしのへカートっ!」
「ちょいちょいちょいちょい!」
「なによ。」
目の前に現れたのは、人間より少し身長の高い、真っ白な装甲に水色の線が入っているような機械人形だった。関節の部分もうまくつくられており、さしもの私もびっくりドンキー。
「わたしのへカートの晴れ舞台を邪魔しないでちょうだい。原獣、ヤるんでしょ?」
「そうだけど……」
「ならいいのよ。」
ベールは手を伸ばし、さぁ行きなさい!と意気揚々とはしゃいでいる。少しクールになったと思いきや、すぐこれだ。
今更だけど、へカート完成してたんだ。あんなⅤⅡ3(試作機)とか迷走してたのに。
へカートは燃料を投下されたように動き出し、瞬時にクマに接近した。クマがその爪を振り下ろすと同時に腕に滑り込み、それを掴んだ。
そしてファイア。
「どうよ!精霊術が使えるのよ!」
「普通にすごいけど……」
テンションについていけず、されどへカートの快進撃は止まらない。何かが噴出され勢いのままサマーソルトキック顎にくらわせ、へカートは距離をとった。
物理も完備と。なんか高性能すぎて怖い。
「仕上げよ!」
関節部分がカパッと折れ、両腕を合わせた。
「へカートビームよ!」
「ネーミングセンス低っ!」
ブーメランが帰ってこようが、あえて言おう。
ネーミングセンス低っ!
そのビームは混乱状態のクマに衝突し、毛皮もろとも消滅して肉が焦げ、美味しそうな匂いを発する。
「クマの毛皮は処理が大変なのよ。特にクマの手なんかはね。」
こんがり丸焼きになったクマを見て、ふわりと笑った。死体を前に精霊が笑うとか、世紀末すぎる。
「へカート、運びなさい。」
いつのまにか腕が再接合され、呼ばれたへカートは命令を遂行する。
「ヴァルが見たら喜びそうなおもちゃだ。」
「おもちゃじゃないわよ。スーパーへカートモード1〈エレクトル〉よ。」
「長い。」
「長くないわ。」
「余も長いと思う。」
「何よよってたかって。へカートはへカートなんだから。」
プリプリと再びブリ大根。原獣の処理を終えると、へカートを携えてベールは案内を再開した。そこそこの道のりとなる。
「まずどこに行くの?そのまま霊神のところ?」
「エスタールのところよ。」
「あー、あの……」
ぶっ飛ばされた記憶が蘇る。今度は扉を叩くのやめよう。
「なんでこんな遠くに作ってるんだろうね。面倒以外の何者でもない。」
「万が一にでも入られないように、ということだ。原獣もいるこの中で、運よく目を覚ましたとして、 魔力がなくてこの距離をどうにかできるわけがない。」
「実際さー、入ったら死ぬわけじゃん。私でも死にかけたんだよ?意味なくない?」
「そういう抜かりのなさに裏打ちされたあの露出だ。あんな露出でも余裕、そういうことを暗に伝えているんだ。」
「そんなもんなのかな」など、あとはうんとかすんとか生返事を繰り返す。
「うんとかすんとか言ったらどうだ。」
あまりにも適当なことを繰り返しているうちに、うんとかすんとか言ってる中でそんなことを言われた。
「言ってるじゃん。」
「うんとすんは言うな。」
「わん。」
「それは犬だ。」
「ばう。」
「それも犬だ。」
「わう。」
「それも犬だ。」
やっすい漫才を披露したところで、「そろそろ真面目にしなさいよ」との伝令が。ここは隊長であるベールに従うべし。
「まったく、2人して変ね。強いやつはみんな変なの?」
なんて、呆れながら苦笑していた。
「そんなことしてたら、捕まっちゃうわよ?」
冗談まじりに指を差した。
あれ、これって……?
「そんな典型的なフラグがあるわけ……」
「確保ォっ!」
「あるんかい!」
そこでは、今のベールより一回り二回りも大きい、大人サイズの精霊が武器を構えて私達を狙っていた。
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本当、なんでこんなことになってるんでしょう。
当初、もっとほんわかした感じの異世界日常系を描いていたつもりなんですけどね……知らぬ間にどろどろ異世界系に変わってました。
大切と目標。これが題材って感じですかね。知りませんけど。
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