506話 魔法少女と魔神
「……何これ。」
Yo○iboを見て……正確にはそれを含めた光景を見て堪えきれずに漏らした。
「見て分かる通り、ボクの部屋さ。」
そこらに電化製品の転がった、異世界にあるまじき姿をとったそのへやからは、絶えず電子音が聞こえてくる。
「クリスマスイベントだってね。変な格好の装備を着るとコインのドロ数が上がるから仕方なく来てるけど、弱いな……」
不満げに独り言を漏らす。せっかくの強武器が、などと語っている。
ちなみに変な装備とはサンタコスのことだ。
しかし、そのビジュになにか既視感を感じた。
「それ……まさか、アナザーエデンス?」
「ほぅ、この良作を知っているか。キミ、見る目あるな。」
「このグラフィック……投影機能付きと見た。2だと有り得ないし、まさか3出たの?」
「電撃発表があったんだ。予告は3ヶ月前。」
「ほほう……」
そのグラフィックの美しさに、少し見惚れてしまいそう。
これが1世代前ならハードがバグるところだけど、今じゃそんなのない。物によっては、フルダイブとは行かなくともハードに付属する擬似スクリーンに投影して直に感じることができるようなものもある。
この半年で、このゲームもそうなるとは。
「多分もうすぐ定期イベントがあるね。そのための前段階。」
「イベントコインで良アイテムが買えるな?」
「ボクも同じ考えだ。なんだ、意外に趣味合うじゃないか。」
キャラクター操作をしながら、魔人は器用に笑って見せる。その間キャラは、敵の攻撃を悉くかわして隙をついてキャンディーの杖で叩きつけた。
「思ってたよりくるの早いなと思ったけど。」
「イレギュラーが発生した。」
人神が面倒そうに話す。
「でも、しかたない。ボク直々に教えてやろう」
カチカチカチ、カチッ!敵は光の粒子となった。そこから、赤と白と緑のコイン(200)とサンタ帽がドロップする。
「これで100万コイン。イベント装備じゃないと50コインとかいう鬼畜しようでここまで貯められたボクを褒めて欲しい。」
フハハ、とゲームの世界で大虐殺をしたであろう魔人は声を上げる。
「高グラフィックだけあって最初の1000匹くらいの討伐は楽しかった。けど……あとはもう……」
電話の無感動なぽちぽち音の正体を知った。何故だか無性に悲しくなってくる。
「ゲームの話はもういい。ヴァル、話をしろ。」
「普段は怠惰のくせにこんな時だけ調子がいいな。ボクはボクのやりたいようにやってるんだ。」
ようやくゲームの電源を切った。
「要するに、この城は通常状態からキミの成長を促すよう特殊な配置に置き換えた。」
「あのクソみたいな罠、故意に仕込んだんかい。」
「確かに、やりすぎとは思った。」
人神が苦笑混じりに言っていた。なら止めろよと思わないでもない。
「ここまで辿り着いちゃったし、ボクが直に戦って叩き込もうという話さ。キミ、そこに立って。」
「なら、余は離れて観戦しているとするよ。」
「酷。」
私の疲労を他所に、人神は部屋の端に行った。なんかゲーム機見てる。やったら殺そう。
「ほい、結界魔法。」
パチンとと鳴らすと部屋の中央が広がり、透明な結界が張り巡らされた。
「空間魔法が使える人間は初めて見た。ボクにその魔法、使って見せて。」
手をクイっとする。横目で見ると、イカが武器を持ってインクを塗るゲームをプレイしている人神がいた。ウデマエXとかやり込みすぎだろ、と思った。
ほんとにこの神ゲーマーだな……ゲームのことしか脳にないのかな?
「ねぇ、いくつかいい?」
「答えられることだけなら。」
「分かった。……………………その、クソダサいTシャツ何?」
「……そんなにダサいか?」
魔神が細めで自身の服を見た。白地のTシャツに、黒字で魔神と書いてある魔神Tシャツ。魔T。
「うんクソダサい。何その安っぽいフォント。」
「このTシャツ色違いで7種、そこに入ってるけど。」
「まだマシな部類だったことに驚き。」
同じ服に紫とか緑があることを想像すると、絶妙に嫌な気分になる。魔法少女服より着たくない。
「そんなこと言ったら、キミの服の方が何倍も恥ずかしいと思うんだけど?ボクは人に見せない、キミは人見せる。これが違いだ。」
「私はこれ着ないと善良な一般市民になるからダメなだけ。脱がないんじゃない。脱げないんだ。」
「キメ顔で言うことではない。」
「で、いつ始まるの?」
人神がゲーム画面を見ながら聞いてきた。21キル。ノックアウト。
「ゲームされてると気分乗らないなー。」
「ボクのゲームに勝手に触れないで。負けたらボコすよ。戦績に泥を塗るな。」
「勝ったんだけど?余、余裕で勝ってるんだけど?」
理不尽(?)な責められ方にツッコミを入れ、眉尻を下げて仕方なく審判に移る。
「そもそも、何を審議して判定するのこれ。」
「余が聞きたい。」
いるだけの審判になった。用済みだ。
「じゃ、改めて始めようか。」
私は刀を取り出した。一見、銃の方が身軽で空間魔法とは合いそうな雰囲気醸し出してるけど、それは醸し出してるだけだ。
実際はラノスでも十分使えるけどね。そのまま銃弾転移させたり。撃った瞬間相手にドーン。あれ、こっち方が強い?
避けられない理不尽にちょっとだけ引いた。誰かにやられでもしたら、私死にそうだ。
この戦法は、一生口外しないことにした。
と、無駄話が過ぎた。
今からやるのは、先輩の技と掛け合わせた空間魔法。見えるもの見えないもの、消えるもの。その全てを認識できる知覚能力がある奴なんて多分いない。しかも空間魔法で私を増やせる(誤認という意味が強い)。
「それに。」
縮地。百合乃のを真似た。足の踏み位置の座標を設定して、瞬間移動のように見せる。そして、刀を盾に振るった。
「そんな適当な一撃、当たるとでも?」
「思ってないよ。」
次の瞬間には魔神の目の前。私の身の危険を感じるまで、私の姿には気づかない。
「ディメンションプレス!」
さっきの私の真似。魔神は少し驚いたように身を捩ると、魔法を発動した。
「7つの輝く魂に。」
鮮やかな7つの輪が回転し、空気を重たくする。
「重力世界。」
「反重力。」
その輪をひとつ、腕につけた。大きな輪は収縮し、腕にぴったりのサイズとなる。
効果を打ち消す系の魔法?全く分からない……意味不明なんだけど?
軽い予想を組み立てつつも、しっかりと攻撃を加えていく。空間魔法で空間とものとを繋げる攻撃。向こうも軽くジャブと言うように小さな弾幕を飛ばす。
それは縮光によって誘導されており、少しだけ首を傾げてそれで終わり。
そのまま陰縮地で陰となり、刀を突き刺そうする。
「脳が麻痺している?いや、錯覚か。どうしようもないな、これは。」
諦めたような顔で、少しだけ体を捻る魔神の服を貫いて、空中に繋ぎ止めた。瞬間だった。
「ディスタブ。」
空中に刺さらずただ空気を裂く結果となった。
「……なにそれ。」
「さぁ?暴いてみせてよ。」
「そんな遠回りな……」
仕方なくラノスに変更する。やはり現代武装が合う。
ラノスのどこでも転移をぶちかます。
パァァンッ!パァァンッ!パァァンッ!音だけな3回こだまする。その3発は、確実に魔神の体内に転移させたはずだった。
「物体は触れている空間に影響を及ぼす。これは常識だ。」
魔人はただ、遠回しな発言で笑っているだけだった。
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序盤に出てきたゲームの話、最初普通にアナザーエデンにしようと思ったんですけど、普通にそのゲーム存在してました。
確認途中でしたし、少しいじる程度に留めました。あれ、1文字追加されただけじゃ……?
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