476話 魔法少女は帝国へ
何もない、いやもう何回目かのこの日を5日間とか地獄だ。そう思いながら、ベッドに大の字になる5日目。
目を擦りながら、ようやく最終日だと体をガバッと押し上げる。生きているのにそうでないような、時間が繰り返される気持ち悪さを存分に堪能できた。
間違い探しのような探し当て感覚だった当初から一転、全てを知っていざ5日と言われると、暇としか思えない。
今の私は記憶が全部消されている設定という。だから、変な真似はできないとなると家の中ではため息の連続だ。
「わ」
「もういいって。」
「何も言ってないんですけどぉ……」
聞き飽きたどころか鬱陶しさを99パー含み始めたそのセリフ押しのけながら、これまたトースト。私は1人で外に出た。
出てしまった。
未来の私が大いに頭を抱えることになるこの状況を、今は何も疑問を持たないことに恐怖を覚えるほどだ。
多分、最終日ということで気が完全に抜けていた。
玄関を出ると、強烈な殺気を感じて身を横に投げ出した。
「神なる裁きを躱すとは、神創教徒の風上にもおけませんね!姿を現した狐には地獄の断罪を与えましょう!」
キャスケット帽を目深に被る少女?が、家の玄関の前に仁王立ちしていた。扉に傷はついていない。不可視系の能力か。
特定人物にだけ攻撃するとかの可能性も……?
ともあれ、私は攻撃されているようだ。
「ツッコミどころ満載だけど私は神なんか信仰してないよ!」
続け様の殺気を地面を転がって回避する。惨めでもなんでも、生きたいもんは生きたい。
「ループといえど小さな歪みを伴うのが世の常。不変は存在しない。しかし、あなたは違うようですね?」
「……百合乃と出てなかった。」
今になって失態に気づく。となれば、アーレのことも……
「さすがは《特異者》……いえ、これは間違いなんでしたね。神の領域には人の智では踏み荒らせないというわけですかあ。」
「何言ってるか分からないけど、私は逃げさせてもらうよ。」
逃げるが勝ち。柵を飛び越え、転移石を投げようとしたその瞬間。
「ここがどこであるかお忘れのようですが。」
何か重苦しい雰囲気、いや。自分が重くなるのを感じる。
「王国はもう、我々のテリトリーなのです。」
振り返れば、キャスケット帽を外した水色の髪の少女が。
「羨ましいですね、その髪。しかし、使い方を知らぬようでは山中の馬や鹿と相違ない。」
少女がフッと笑うと、悪寒が襲う。生物としての格を見せつけられてるような。
「かげよ、もどれ。」
無尽蔵の影の塊が全天を覆い尽くすように現れた。私を飲み込むように、太陽の光を消し去ろうとして……
「死んでたまるかよおぉぉぉぉぉ!」
私は叫びながら全力のトールをぶちまけた。閃光が四方八方に飛散し、照らす。
「いやいや、厄介ですね。」
光が唸り、影を塗りつぶすように輝いた。消滅する形で影は収束し、視界が晴れる。
これ一体なんなの?ってかあの子誰?……アーレの方は大丈夫かな。
僅かな隙間に思考を回転させ、重い体に鞭を連打する。
「あなたを収容できれば戦力の増強に貢献できるというのに、つまらない抵抗はするものじゃないですよ。」
「捕まったら終わりって分かるからだよ!無抵抗の奴こそ山中の馬か鹿なんじゃないの?」
この世に存在しない慣用句を叫び返しながら真逆の本面へ走る。
ステータス減少でもしてるの?明らかに色々弱体化してる……
『頑張れ~』
『ファイトー』
応援はいいから手伝いしてよ!私の危機!生存の危機だよ!
『アーレが助けてくれるでしょ』
どうやら私は他力本願のクソ野郎だったようだ。
キャスケットの少女から全力で逃げていると、ふと頭に何か……
『アーレから交信が来たみたい』
なんでそんな都合よく!?
『脳に直接情報を添付したみたい』
『情報映すよ~』
脳内にいつのまにかでかいプロジェクターみたいなのが現れ、情報をまとめたものが映し出される。
脳内って、すごいなぁ。
気持ちを入れ替え、私はとりあえずそれを確認することにする。
えーっと、神国軍副機卿兼指揮官……漢字ばっかで分からない。
神国ってことは、帝国も関係してるかも……副機卿ってなに?枢機卿とかそんな感じ?軍隊と宗教交わっちゃった感じ?
ツッコミが追いつかない。現実が目の前に迫ってるからそんなことする余裕もない。
「ねっ、ネイファ・リンカ!目的はなんなの?」
とりあえず時間稼ぎのために名前を叫んでおく。私が知るはずのない情報だし、何か反応が……
「どこから漏れたんでしょうか……うちの部隊は機密漏洩に厳しいはずですが。まぁいいでしょう。」
真顔で私を視線で射抜く。
無意味ぃ!
『いや、無意味ではないよ』
どういうこと?
答えが返ってくる前に、ネイファは動き出す。
「情報が知られ、捉えるのも難しい状況ですかぁ。なら、ころしてしまおう。」
「極端!極端すぎるっ!もっと他に候補を!」
死にたくない一心で叫ぶ。
いくら私でもこの相手は無理。否応なく殺される。
ラノスを手に握り、少し気持ちを落ち着かせながら後ずさる。ジリジリ距離を離していく。
「かげのぐんたい。」
指にかけたキャスケット帽の合間から除く目が怪しく光る。
「は……これなに、えっちょ!?」
私の家の周りに存在する全ての影から、蟻の行列のようにワラワラと人影が生まれていく。
影の能力者?そもそもこの世界の人なの?髪色的に異世界人ではないけど、あぁもう!分からない!私の生死も分からない!
これに銃は100%意味がないだろうなと思いながらも1発、ラノスの弾を撃ち込む。影に穴が空き、戻った。
「だよね知ってた!」
「ぱたーんわん。」
声に呼応するように円陣が組まれる。私を中心として。
「のみこめ。」
そのまま縮小して私を押しつぶそうとする。こんなの触れるのすら怖い。
精霊!精霊展開して!
「ウィンド!」
精霊術が作動した。羽が生え、地面に遮二無二風圧を与え私は押し返されて宙に舞う。しかし、直ぐに反発されるように羽は戻される。
一応このくらいは、使える、から……
『もう満身創痍』
『キボウノハナー』
『ツナイダキズナヲー』
死亡フラグを奏でてくる私に苦言の一つも言うことのできない現状。しかしサポートはしてくれるので文句も言いづらい。
倒すかじゃない。逃げるかを考えないと……
独自の魔法により万属剣を50本ふわふわ浮かせ、私達の情報処理技術で自由自在に動かす。影の対処を行なっていく。
よし、この調子で減らしていけば。
影どもと切った張ったする場所には影の残骸が散らばり、シミを作る。このままいけばどうにかなる、どこと思っていたけど、そこまで甘くないみたいだ。
「はぜろ。」
影に覆い尽くされた。シミになった影すらも爆散し、私は飲み込まれる。
「なに、こ、れ……理不尽、すぎる……」
私は意識を閉ざした。
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「神創教徒の大義を果たしましたぞ!」
キャスケットを被り直した少女、ネイファは声高に叫ぶ。
「これでよろしいのですか?我が神。」
胸ポケットにしまわれた小さな石ころを見て、ぽつりつぶやいた。
ネイファ・リンカは、影に雫を与える異能を持つ。
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ガヤガヤとした街中の喧騒に目覚めると、ボケた頭をふるふる回す。隙間から見える国旗のような旗を見つめながら、目覚める意識に疑問を持つ。
いや、目覚める?
先ほどまで行われた死闘、それも一方的な力量差による蹂躙から目を覚ますことはないと確信したはず、なのに。
生きてる。
嬉しさや不安やなにやら全部、詰まった感情をぐるぐる心でかき混ぜて、唸り声を発する。
すぐに街中だからと冷静になると、ふと疑問が声を漏れた。
「ここ、どこ?」
異世界生活3度目の、そんな言葉が。
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なんかどこかで見たようなキャスケット帽の女の子がいましたね。誰でしたっけ。(すっとぼけ)
多分ですけどこの物語の後半戦に突入した今章、うまく終わらせられる自信はありませんが、とりあえず投稿はします。
頑張ってはみますので、暖かく見守ってやってください。
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