台地の村【リリー・パリゼット】
アスナ・ギーヴルは死んで……①
ナックラ・ビィビィ一行は、リャリャナンシーの頼みで、巨大な台地に寄り道をしていた。
樹木が斜めに生える台地の側面にある、曲がりくねった断崖道を、荷物を担いだギャンは。
「ヒーッ、ヒーッ」言いながら一番最後から歩き登っていた。
先頭を歩くナックラ・ビィビィが、振り返ってギャンを見て言った。
「情けない……この程度の山道で、音を上げおって」
「こっちは荷物を担いでいるんだぞ、あんたたちみたいに軽装じゃないんだ……ヒーッヒーッ」
「しょうがないのぅ」
ナックラ・ビィビィはギャンの後方に、数体の身代わり泥人形ダジィを縦に並べて出現させた。
「ダジィ~ィ」
ダジィたちに荷物を押されて、ギャンは少し楽に登れるようになった。
ギャンが言った。
「最初から、こんな楽な方法があるなら使ってくれよ……どうせなら、ダジィたちに荷物を運ばせて、オレたちも楽して運んでもらえれば」
「楽をした旅ばかりしておると、人生と同じで人間成長せん……あと少し登ったら、平らで見晴がいい場所がある。そこで休憩と今夜の野宿準備じゃ。この【リリー・バリゼット台地】は一日では登りきれんからのぅ」
数体のダジィが、坂道を次々と転げ落ちて土の塊に変わり。
最後の一体が断崖から落下して砕けると、ナックラ・ビィビィ一行は見晴しがいい平らな場所に到着した。
小川が流れ、芝生のような植物が生えているキャンプや野宿をするには適した場所だった、実際に野宿をした者の焚き火の痕跡もある。
「あの大樹の枝に
「少し休ませろよ、ババァ」
ナックラ・ビィビィが、呪文を唱えるとギャンの頭がリングの大きさに合わせて、膨らみはじめギャンは悲鳴を発する。
「うわぁ! 野宿の準備をやります! やらせてください! だから、頭を縮めてぇ!」
ギャンが、野宿準備を進めている間に崖のような縁に立ったナックラ・ビィビィは、眼下に広がる風景を眺める。
続く地平線、連なる山脈、流れる大河、村や町に繋がる街道。
「人の世は移り変わるものじゃな……開拓されて森はだいぶ減った、新たな村が誕生して、人は増えたがな」
振り返ったナックラ・ビィビィの目に、変顔をしてナックラ・ビィビィを小バカにしているギャンの姿が映る。
滝汗を流して、変顔のまま固まるギャン。
意地悪な笑みを浮かべるナックラ・ビィビィ。
「ほぅ、なんじゃ儂に向かってその変顔は……良いことを思いついた、その変顔を崩すでないぞ」
ナックラ・ビィビィは、手の甲に浮かび出た魔導生物に、魔導カードをスラッシュさせる。
どこからか飛んできた巨石が空中で、高速回転をして削れ。
ギャン・カナッハの変顔彫刻に変わり、見晴らし場に落下する。
変顔彫刻を見たリャリャナンシーが、腹を押さえて笑い転げる。
ヒクヒクと頬を痙攣させたギャンが、ナックラ・ビィビィに質問する。
「なんだ……この、巨石彫刻は」
「笑えるじゃろう、この場所まで汗だくで登ってきた旅人に、少しでも笑って旅の疲れを癒してもらおうと思ってな……後世まで残る笑い者じゃ、どうだ変顔が名所になって嬉しいじゃろう……みんな、お主を指差して笑い転げるぞ」
「あんたって人は……どこまで底意地が悪いんだ」
ギャンは今さらながら、とんでもない大魔導師に関わってしまったと思った。
夕暮れが迫る中、食事の終わったナックラ・ビィビィは、焚き火を眺めながらリャリャナンシーに質問する。
「お主の話しだと、このリリー・パリゼット台地の上にある、リリー・パリゼット村には幼馴染みで、婚礼の前夜に殺されたアスナという娘の墓があるそうじゃな」
「『アスナ・ギーヴル』の墓標ですね。ありますよ、次の日の結婚式を楽しみにしていたのに残念です……花嫁衣装のまま、埋葬されました」
小川の水で洗濯をしているギャンが、リャリャナンシーの細いヒモの下着を引っ張り眺めて、にやけているのを見た。
ナックラ・ビィビィが近くにあった柔石をギャンの頭に向かって投げつけ、ギャンはタンコブを作りながら洗濯を続けた。
ナックラ・ビィビィは、リャリャナンシーに言った。
「その、お主の幼馴染みの死因が首筋に残る牙痕か、下顎に牙を持つ吸血鬼か魔物かわからんが……一日も早く、犯人が見つかるといいのぅ」
リャリャナンシーが黙って、焚き火を木の棒で掻き回すと炎が少し勢いよく燃えた。
翌朝──野宿から、台地の上部に向かったナックラ・ビィビィ一行は、昼頃に【リリー・パリゼット村】に到着した。
最初に、村の墓地に立ち寄り。
アスナ・ギーヴルの墓標に花を添えて、祈りを捧げる。祈り終わり立ち上がったリャリャナンシーが言った。
「すまんが、もう少しだけ。わたしのワガママにつき合ってくれ……アスナ・ギーヴルの家に寄りたい」
リリー・パリゼット村の外れにある、アスナ・ギーヴルの家に行くと。
ちょうど、家の前にある巨大な車輪の
血に染まった花嫁衣装を着た、顔色が悪い『アスナ・ギーヴル』が出てきた。
ゾンビ色の肌をしたアスナは、リャリャナンシーの姿を見て、親しそうに話しかけてきた。
「あっ、リャリャナンシー……久しぶり、明日のあたしの結婚式に来てくれたんだ」
リャリャナンシーが、首筋に牙痕が残るアスナに言った。
「結婚おめでとう……綺麗な花嫁さんだ」
ギャンが、リャリャナンシーの脇を軽くつついて、小声で訊ねる。
「どういうコトだ? 幼馴染みは、死んだんじゃないのか?」
畑を農具で耕しているアスナを眺めながら、リャリャナンシーが言った。
「アスナは死んでいる……埋葬された三日後に、墓から這い出してきて、自分が死んでいるコトに気づかす、結婚式前日の記憶を繰り返している……次の日になってもアスナにとっては、結婚式の前日だ」
ナックラ・ビィビィが呟く。
「牙の呪いとか、感染症の類いか……どちらにしても、これは
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