第二十二話 死❷

「最悪だ」


戦いの火蓋はタイカのこのボヤきによって切り落とされた。


先に行動を起こしたのはタイカだった。それは焦りから来る条件反射的な攻撃。両手をセイの方へ向けると同時に九つの拳大の火球を出現させそれを一斉に放つ。火球らはそれぞれ違う軌道を描きながら高速でセイへと接近した。


セイは九つ全てを最小限の動きで躱すとタイミングをずらして放たれた最後の一発を左脚で蹴り弾いた。


それを見越していたタイカはセイが蹴りを出したのとほぼ同時にさらに大きな人の頭ほどの火球を撃ちだす。


「どうだこれなら蹴れねぇだろ」


タイカのその台詞を嘲笑うかの様にセイは近くの枝を拾い上げ投げナイフの様にタイカに向かって投げた。それは火球の中心を貫き打ち消すと、火を纏いながら凄まじい速さでタイカの脇腹に突き刺さった。


投げられた枝の衝撃と痛みでよろけたタイカの懐に潜り込んだセイは突き刺さったままの枝をさらに奥へ押し込む様にして掌底を脇へ食らわせた。


タイカの額から滝のように汗が噴き出す。


内臓まで届く激痛に意識を保つのもやっとだったが、懐までまんまとやってきた敵を逃す訳にいかない。距離を取られれば動きの速いセイが戦いの主導権を握るのは明白だった。しかも相手はほぼ不死身で自分は瀕死状態だ。出血も酷い。時間が長くなればそれだけこちらが不利になる。


タイカは自らの手を灼熱にすると、手刀を目の前にいるセイの首元へ振り下ろした。


どんなにセイが早くても至近距離で繰り出された攻撃を躱しきるのは至難の技だ。しかし手で受けようとすれば陽炎を纏う程の手刀により一瞬にして重傷の火傷を負う事になる。セイにとってはどちらを選んでも痛みを伴う結果が待ち構えていた。


タイカの狙いは何よりもこの難しい選択を迫り、迷わせ、その迷いによって相手に隙を生じさせる事にある。


しかしセイは迷う事なく振り下ろされるタイカの腕を掴んだ。焼け焦げる人肉の酷い匂いが辺りにたちこめる。それでもお構い無しに腕を掴む力を強めた。みしみしと音を立て、しまいに腕がひしゃげ皮膚を突き破り骨が突き出した。タイカの腕は文字通り握り潰されたのだ。


セイの片手は焼け焦げもはや原形を留めていない。一部の皮膚はタイカの腕にこびりついてしまっている。残った片方の手でタイカの腕から飛び出た骨を引き抜くと肋の隙間を狙いそれを突き刺した。


響く断末魔の声にウヤクは耳を塞いだ。そうしなければとても正気を保っていられない。


傷から血が溢れ出すタイカをよそにセイの焼けた腕は徐々に修復し始めていた。

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