母の作戦

 知らなかった。まさか、してやられたとはこの事だと、話を聞いて思った。


 「まんまとよね」


 「そうよね。さすが入山先生だわ。ふふふ」


 楽しそうに笑う母のような人達。まさか、こんな手の込んだことを母がしていたとは。姉は、姉も知っていたのか?


 「お姉ちゃん、あの、これはいったい……?」


 「すごいでしょ。お母さん。まんまとしてやられたでしょ」


 「え?…いつからの計画なの?」


 「亡くなる半年くらい前かなぁ。急に全員お茶室に呼び出されて、それで」


 「あの時は、そんなお話嫌ですよってみんなでいったんですけどねぇ、でも先生のお気持ちもよくわかるので、私たちお引き受けしたんですよ」


 花田先生が笑いながら私に言う。そんなまさか、そんな前から仕組まれていたことだったとは。


 話を整理すると、もう死期が近いと思った母が、お教室の皆さんを呼んで、私をこの世界に入れてあげて欲しいと頼んだと言う。


 ――一生涯大切にできる仲間と、この世界をどうかあの子に教えてあげて欲しい。でも、普通に誘ってもきっとやってこないから、私が死んだらその次の年の秋に「渓荘苑けいそうえん」にあるお茶室で私を偲ぶお茶会をして欲しい。それなら絶対にあの子はやってくるし、きっと、この意味がわかるから。


 なんてことだ。本当にしてやられてしまったではないか。でも、それだけではなかった。大人たちは、全てを見抜いているんだろうか。私の人生を全て見透かしているのではないだろうか。その先に進んだ懐石会場で私に話しかけてきた人を見て、さらにしてやられたのかと、言葉を失った。


 ――なぜ、彼女がここに?


 「絵里ちゃん、私、わかる?」


 ――あぁ、もう、本当にしてやられたよ、お母さん、全部お見通しですか?


 ――まんまと引っ掛かったわね。もう戻れないはずよ。ふふふ


 かちゃりと小さな音がして、母が楽しそうに、彼女の後ろで笑ってるのを、私は見た気がした。


 ――作戦大成功ね。ふふふ


 と、嬉しそうに。

 

 

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