第572話


 夕方の終わりに日が沈み―――。

 インプレッサで送ってもらった陸雄は玄関前で降りる。


「岸田―――今日は早く寝ろ。明日から練習を再開する。次の対戦校は決まっている。助っ人も呼んでいる」


「―――はい。今日はありがとうございました」


 中野監督とのやり取りを得て―――運転してインプレッサが離れていく。

 陸雄がバッグを持って、玄関に向かう。

 玄関前のドアを開けると目の前に清香がいた。


「陸雄―――おかえり」


「―――ただいま。待ってたのか?」


 陸雄が靴を脱いで家に上がる。


「陸雄―――今日良いことがあったんだ。京都からスペシャルゲストが来たんだよ!」


「スペシャルゲスト? 誰だ?」


「今そのスペシャルゲストが陸雄の家に来たいっていうから一緒に来たばかりだよ」


 陸雄がバッグを持ったまま食卓に移動する。


「陸雄―――今日の試合勝ったの?」


「―――勝ったけど、あまりいい気分じゃないな」


 食卓の前にテレビを見ている成人の男性の後ろ姿が映る。


「おっ! もう帰ってきたのか―――久しぶりだね」


「貴方は―――!」


 陸雄が驚いて、スポーツバッグを落とす。

 スポーツ刈りの好青年でしっかりとした筋肉のついた大学生―――。

 清香の兄の石渡淳(いしわたりじゅん)だった。


「淳さん! いつ戻ってたんですか!?」


「ははっ―――昨日の夜に着いたばかりでね。帰るのは二週間後くらいだよ」


 清香が陸雄に飲み物を渡す。


「―――はい、いつものプロテイン混ぜた牛乳ね」


「清香―――ありがとう! スペシャルゲストって淳さんだったんだな。今日最後の最後で良いことあったな」


 陸雄がプロテインの混ざった牛乳を飲む。


(乾―――今日のデッドボールを見ても―――それでも俺に試合をしろとお前は言うだろうな。野球で俺は強く優しくなる)


 飲み終えて、陸雄が淳と雑談をする。


「陸雄―――帰ったんなら荷物運び手伝いなさい。今日は清香ちゃんのお母さんと一緒に豪華な夕食にするわよ」


「あ、ああ! 今行くよ! 淳さん、食べ終わったら今度の俺達の朝練に付き合ってくれないか?」


「もちろん―――俺も中野監督にそのために呼ばれたんだよ」


「―――えっ? 中野監督に呼ばれて? その話詳しく―――」


「陸雄ー! 待たせるなら夕食あげないわよ!」


「あっ! じゃあ、まず夕食っすね。積もる話もあるし、淳さんも清香も一緒に食べよう!」


 母親の声で陸雄がそう言って―――玄関に行く。

 陸雄の母親が帰り、清香の母親と共に豪勢な夕食の準備が始まった。


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