第566話


 学校前にバスを止めて―――メンバー達が電車に乗って家に帰っていく。

 柊はユニフォームを洗濯機で洗う作業が残っている。

 そのため学校に残る。

 今日の勝利のアクシデントにメンバーが勝利をあまり喜べずに駅前で解散する。

 陸雄も家に戻り―――制服に着替える。

 清香は家で勉強中のようで、声をかけずに中野監督にスマホで電話する。

 中野監督が家の前で待っていろと言われ、玄関の外で立ち尽くす。

 しばらくしてインプレッサが玄関前に着く。

 ドアが開いて、陸雄が乗り込む。

 助手席には古川が黙り込んで座っており―――。

 後列の席には紫崎と松渡が座っていた。


「三岳の入院した病院はどこなんですか?」


 陸雄が窓際の席に座り、話す。


「兵庫第一総合病院―――岸田が二回戦の時に入院してた病院だ」


 中野監督がそう答えて、車を運転する。


「フッ、陸雄。ハインが言っていただろう? 死んではいなんだ。ここで野球を辞めるくらいなら積み上げた練習を時間を無くす。命よりも大事なものを自分自身で無くすようだ」


 紫崎が窓際でそう答える。


「紫崎―――けど、俺―――デッドボールをこれからもするかと思うと……怖くて……」


 陸雄が反対側の窓際で俯きながら答える。

 真ん中に座る松渡が話に入る。


「三岳さんなら許してくれるよ~。正直雨のせいで起きた事故だから、今以上に制球力をつけて、もうそんなことをしないようにすれば良いんだよ~」


「はじめん……三岳さんに謝って無理だと思ったら今後マウンドで灰田やはじめんに交代するよ……」


 陸雄がそう言い終える頃には駐車場に着いていた。

 妙に長い時間を車で過ごしたような重い空気だった―――。



 病院内に中野監督たちが入っていく。

 受付前の椅子には多くの診察を受ける人が座っている。

 病院内を歩く看護婦や人が多く目立っている。

 中野監督たちは受付に面会を申請する。

 受付の看護婦が用紙とボールペンを渡す。


「面会ですか? 名前と入院相手の名前をお願いします」


 中野監督が事前に相手校の監督と三岳の情報交換をしたので用紙に書く。


「はい、確かに―――今日入院した三岳さんは三階の302号室にいます」


 中野監督がそれを聞いて、エレベーターを使って三階に上がる。

 陸雄は不安で心臓が高鳴っていた。



 エレベーターが三階に着き、陸雄達が出ていく。

 白を基調とした廊下に手すりと名札がかけられている患者の部屋が続いていく。

 古川が白衣をセミロングの四十代の女性に声をかける。


「―――お母さん」


 古川のことばで白衣の女医が止まる。


「あら綾音じゃない? 誰か入院した患者でもいるの?」


 古川の母らしき女医が立ち止まる。

 陸雄達が驚く。


「古川マネージャーのお母さんってここの病院の女医だったんだ~。ビックリ~」


 松渡の言葉で女医が陸雄達を見る。


「あら、そうするとあなた達が大森高校の野球部ね―――そちらの女性は?」


 古川の母親が中野監督を見る。


「初めまして、監督の中野沙耶です―――いつも娘さんが部内でお世話になっています」


 中野監督が一礼する。


「いえいえ―――綾音が楽しそうに食卓で野球部のこと話すのでこっちも自然と明るい気持ちで元気づけられています。綾音の母の篠美(ささみ)です」


 古川の母親が頭を下げる。

 古川が母親に話に参加する。


「―――母さん 今日入院した三岳君の容体はどうなってるの?」


「私が診察したけど骨にはヒビは入ってないわよ。二の腕に腫れが残ってるから、冷やして湿布を貼って、三週間で退院できるわ」


「そうですか―――良かった」


 陸雄が安堵する。


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