第561話


 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。

 

「大森高校―――三番―――セカンド―――九衛君―――」


 九衛が左打席に立つ。

 中野監督のサインを見て、ヘルメットに指を当てる。


「相手には気の毒だが、これも野球―――俺様が満塁にさせてやる!」


 九衛が構える。

 佐伯がサインを送る前に切間がセットポジションで投げ込む。


「―――切間さん!」


 佐伯が声をかける頃には指先からボールが離れる。

 真ん中にボールが飛んでいく。


「俺様にバレバレの―――」


 九衛がタイミングを合わせて、スイングする。


「―――スラーブなんだよ!」


 打者手前でボールが左に曲がりながらスライダーより深く落ちる。

 バットの軸にボールが当たる。

 カキンッと言う金属音と共にボールが高く飛ぶ。

 ボールは右中間を抜ける。

 ハインと紫崎が各塁に走る。

 バットを捨てた九衛が一塁に走る。

 外野フェンス下の壁にボールがぶつかり―――ライトが捕りに行く。

 ライトが拾って、ファーストに送球する。

 ハインが三塁を余裕を持って踏む。

 紫崎が二塁を踏み終えて―――。

 ファーストにボールが渡る前に―――九衛が一塁を踏み終える。


「―――セーフ!」


 塁審が宣言する。

 ランナー満塁になる。

 ファーストが切間に送球して、切間が怒り顔でキャッチャーボックスを見る。

 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「大森高校―――四番―――レフト―――錦君―――」


 錦が右打席に立つ。

 佐伯がタイムを取る前に立ち上がる。


「くそ! くそぉ! 俺にもっと力があれば―――!」


 切間が苛立ちながら敬遠をしていく。

 錦が構えを解かずに真っ直ぐと切間を見る。

 四球目のボール球が佐伯のミットに入る。


「―――ボールフォア!」


 球審が宣言する。

 ハインがホームベースに向かい―――錦がバットを捨てて一塁へランニングする。

 紫崎と九衛も次の塁へランニングしていく。

 ハインがゆっくりと塁を踏む。

 大森高校に13点目が入る。

 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「大森高校―――五番―――ピッチャー、松渡君―――」


 松渡が左打席に立つ。

 中野監督のサインを見て、ヘルメットに指を当てる。

 その後に構える。

 佐伯がサインを送る。

 切間が首を振って、セットポジションで投げ込む。


(俺とバッテリーとして真面目に長く練習していればこうはならないのに―――)


 佐伯が苦い顔をする。

 指先からボールが離れる。

 真ん中低めににボールが飛んでいく。

 松渡がバントの構えを取る。

 切間が先を読んでいたのか前進する。


「ありゃ~! スクイズ読まれてるよ~!」


 松渡がそう言うと同時にバットにボールが当たる。

 ハイン達は既に走っていた。

 カコンッと言う金属音と共にボールがファースト方向に転がる。

 松渡がバットを捨てて、走る。

 切間がボールを捕ってセカンドに送球する。

 九衛が塁に着く前にボールがセカンドに捕球される。

 フォースアウトになる。


「―――アウト!」


 塁審が宣言する。

 そのままセカンドがサードに送球する。

 ハインがホームベースに着く前にサードにボールが渡る。

 三塁へ向かう紫崎がたどり着く前にアウトになる。


「―――アウト! チェンジ!」


 塁審が宣言する。

 ―――フォースアウト。

 打者が打撃を完了し、打撃走者となって追い出された各塁の走者が次の塁に送球されてアウトになること―――。

 封殺とも言う。

 この場合二塁に走る九衛と三塁へ向かう紫崎がアウトになっている。

 中野監督のサインしたスクイズは失敗した。

 九回表が終わる―――。

 点差は13対12―――大森高校の優勢で終わる。

 メンバーがベンチに戻っていく。

 ベンチの中野監督が腕を組む。


「1点差か―――スクイズは失敗したが、辛うじて延長戦に持ち込めずに勝ちに繋げなければな―――」


 同じ頃に切間たちが戻っていく。


「次のイニングは下位打線……」


 そう言った佐伯が握りこぶしを作る。


「俺達が―――負ける?」


 呟いた切間がベンチに倒れるように座り込む。



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