第559話


 中野監督がサインを出し、ハインが審判に話す。


「すみません―――選手の交代をお願いします」


 中野監督と相手校の監督がキャッチャーボックスにやってくる。

 三岳は女医の診断の後にベンチから姿を消し、救急車で病院に運ばれた。

 陸雄はただただ唖然としていた。

 タイムを取って、ハインがマウンドに駆け寄る。


「リクオ―――もういい。戻れ、交代だ―――」


「…………」


 陸雄は心ここにあらずと言った様子だった。


「リクオ!」


「あ、ああっ! そ、そうか―――三岳は? 大丈夫なんだよな?」


「―――それはオレにも分からない。ハジメに投げさせる。お前はもう投げれない」


「…………わかった」


 陸雄がそのままベンチに戻っていく。

 古川が涙目になりながら呼吸を整える。

 中野監督が鉄山先生を呼ぶ。


「古川の代わりにスコアブックを書けますか?」


「ええ―――本で読んでますから書けますよ。お任せください。坂崎君、古川さんをベンチに座らせて落ち着かせてね」


「は、はい。ふ、古川さん―――こっちに来て」


「いやぁ……怖いよぉ……」


 古川頭を抱えて、ベンチに座り込む。

 鉄山先生が机に座り、スコアブックを書く。



 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「―――選手の交代をお知らせします―――香月高校、三番、三岳君に代わりまして―――レフト―――」


 試合が再開される。

 ウグイス嬢のアナウンスが続く。


「続いて投手の交代です―――大森高校、岸田君に代わり―――松渡君―――」


 デッドボールでランナーが満塁になり、三岳の代わりに三年生が塁を踏む。

 陸雄がベンチで小声で泣く古川の隣で座り込む。

 坂崎の伝令を聞いたハインがキャッチャーボックスで座り込む。

 マウンドに松渡が立ち―――ボールを握る。


「試合を再開します―――香月高校―――四番、キャッチャー、佐拍君―――」


 佐伯が右打席に立つ。


(伝令役の坂崎の話では今日のハジメの調子は雨の中での投球でも好調―――ならば―――)


 ハインがサインを送る。

 松渡が頷いて、構える。


「三岳さんの無念を無駄にはしない! 勝って見せる!」


 佐伯が構える。

 松渡がサウスポー独特のフォームで投げ込む。

 指先からボールが離れる。

 佐伯が気後れして、スイングし損ねる。

 外角低めにボールが飛んでいく。

 ハインのミットにボールが収まる。


「―――ストライク!」


 球審が宣言する。

 スコアボードに137キロの球速が表示される

 

(よし、良いストレートだ―――今のハジメなら流れを変えられる―――)


 ハインが返球する。


「くっ! タイミングの取りにくいフォームだ。けど、満塁だ―――」


 佐伯が悔し気に構え直す。

 松渡が捕球して、構える。

 ハインがサインを送る。

 松渡が頷いて、投球モーションに入る。

 指先からボールが離れる。

 内角低めにボールが飛んでいく。

 佐伯がタイミングを合わせてスイングする。

 打者手前でボールが左に曲がりながら沈む。

 佐伯のバットの下をボールが通過する。


「―――シュートだと?」


 佐伯が声を漏らして空振る。

 ハインのミットにボールが収まる。


「―――ストライク!」


 球審が宣言する。

 スコアボードに131キロの球速が表示される

 ハインが返球する。

 松渡が捕球して、構える。


「ちくしょう! 三岳さんの無念も俺ははらせないのか!」


 佐伯が悔し気に構え直す。

 ハインがサインを送る。

 松渡が頷いて、投球モーションに入る。

 指先からボールが離れる。

 真ん中高めにボールが飛んでいく。

 佐伯がタイミングを合わせてフルスイングする。

 打者手前でボールが二個分落ちる。


「今度はフォークボール!?」


 佐伯が声を漏らした時にはハインのミットにボールが入った後だった。


「―――ストライク! バッターアウト! チェンジ!」


 球審が宣言する。

 スコアボードに133キロの球速が表示される


「―――くそぉ!」


 塁にいる切間が怒鳴り―――地面を強く踏みつけてベンチに戻る。

 香月高校のランナーと打席の佐伯もベンチに戻っていく。

 ハインからボールを貰った松渡がマウンドにボールを置く。

 ハイン達もベンチに戻っていく。

 八回裏が終わり―――試合は12対12の同点のまま―――。

 大森高校の攻撃が始まる。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る