第557話

 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「香月高校―――一番―――ピッチャー、切間君―――」


 切間が右打席に立つ。


(相手はキリマ―――ストレートを調整する打者ではない。かといって、歩かせても同点の場面では後々逆転される可能性もある―――)


 ハインが考え込み―――切間が構える。

 

(仕方ない―――少々危険が伴うが、現状では雨で大きくコースがズレているわけでもないしな)


 ハインがサインを送る。

 陸雄が頷いて、構える。

 そのままセットポジションで投げ込む。

 切間がジッと観察する。

 指先からボールが離れる。

 真ん中と内角の中間位置にボールが飛んでいく。


「へっ! 遅いんだよ!」


 切間がタイミングを合わせて、スイングする。

 打者手前でボールが左に小さく曲がる。

 バットの軸にボールが当たる。

 カキンッと言う金属音と共にボールが高く飛ぶ。

 左中間にボールが飛んでいく―――。

 切間がバットを捨てて、一塁に走る。

 センターの灰田と錦がボールを追って―――走っていく。

 外野フェンスの手前でボールが転がる。

 切間がゆっくりと走る。


(雨の中だ―――滑って転ぶわけにもいかない。俺は投手なんだ、ここはあと1イニングの投球で勝負をつけるためにも無理はしない―――)


 灰田がボールを拾い、錦に中継する。

 すぐに捕球した錦が星川がに送球する。

 星川が塁を踏んで捕球体制に入る。

 ボールが速い速度で星川のグローブに近づく。

 切間が一塁を蹴り上げると―――。

 グローブにボールが入る。


「―――セーフ!」


 塁審が宣言する。


「ふぅ……無理せずに逆転のランナーになったわけだ……」


 切間が塁を踏んで安堵の声を漏らす。

 星川が無言で送球する。

 陸雄が捕球したキャッチャーボックスを見る。

 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「香月高校―――二番―――」


 二番打者が打席に立つ。


(少々危険だが、ここで今のリクオに緩急から安定させよう―――イニングが少ないが同点のまま維持して、攻撃で勝つしかない)


 ハインがサインを送る。

 陸雄が頷いて、打者が構える。

 そのまま投球モーションに入る。

 指先からボールが離れる。

 外角低めにボールが飛んでいく。

 打者がスイングする。

 ボールがバットの下を空振る。

 コースからズレたストレートをハインが捕球する。


「―――ストライク!」


 球審が宣言する。

 スコアボードに121キロの球速が表示される


(リクオが遅めのストレートでこの速度ならカーブに誤魔化しがきくな―――)


 ハインが返球する。

 陸雄が捕球する。

 打者が構え直す。


(だが、コースにズレが酷くなってきている―――リクオが投げる場所が限られるな)


 ハインがサインを送る。

 陸雄が頷いて、セットポジションで投げ込む。

 指先からボールが離れる。

 真ん中高めにボールが飛んでいく。

 打者がタイミングを合わせて、スイングする。

 打者手前でボールが右に曲がりながら落ちる。

 バットの軸にボールが当たる。


(俺のリードを―――次のカーブを詠まれていたか―――)


 ハインがそう思うと同時に―――カキンッと言う金属音と共にボールが高く飛ぶ。

 切間が二塁へ向かってゆっくり走る。

 ボールは一、二塁間を抜ける

 手前に飛ぶボールを切間が避けて、そのまま二塁へ向かう―――。

 打者がバットを捨てて、一塁へ走る。

 灰田が走り、ライト方向へ向かう―――。

 錦もカバーする形でボール方向に走る。

 ライト手前でボールが転がり―――駒島の足にボールが当たる。


「いってぇな……ワシに殺されてぇのか……」


 駒島がボールにケンカを売っている間に灰田が拾いあげる。

 錦の姿を確認して、中継する―――。

 錦がグローブで捕球して、二塁に投げる。

 セカンドの九衛が塁を踏んで捕球体制に入る。

 その間に打者が一塁を蹴り上げる。

 切間が二塁にスライディングする。

 泥水が飛び散りながら―――スパイクに塁が触れる。

 九衛のグローブにボールが入る。


「―――セーフ!」


 塁審が宣言する。

 ツーアウトでランナーが一、二塁になる。


「錦先輩も雨で送球が僅かに遅れたか―――それでも調節し俺様に投げたのは流石だな」


 セカンドの九衛が陸雄に送球する。

 陸雄が捕球して、心臓を高鳴らせる。


(ここで打点を入れさせるわけにはいかない―――ハインと錦先輩は敬遠されるだろう。そうしたら、1点差で負けるかもしれない。俺が打つ番で逆転の点が取れないかもしれない。抑えなきゃ―――!)


 陸雄が構える。




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