第556話


 大森高校のレギュラーが守備位置に着き、陸雄がボールを拾う。

 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「八回裏―――香月高校の攻撃です。八番―――」


 八番打者が打席に立つ。


(速度が落ちていることもあるが、リクオの制球が心配だ―――ここは―――)


 ハインがサインを送る。

 陸雄が頷いて、構える。 

 打者が構えて、陸雄がセットポジションで投げ込む

 指先からボールが離れる。

 僅かに雨で指が滑り―――外角高めにボールが飛んでいく。

 打者が見送る。

 ハインがミットを動かす。


「―――ボール!」


 球審が宣言する。

 スコアボードに137キロの球速が表示される

 ベンチの松渡が中野監督に声をかける。


「制球力乱れてきましたね~。交代します~? 僕は肩出来ましたよ~」


「ま、松渡君は今日の投球を見るに―――ちょ、調子が良いです」


 坂崎が遅れて報告する。 

 中野監督が腕を組みながら、返答する。


「もう少し待て―――八回裏の守りは岸田に続けさせる」


 中野監督がハインからボールを受け取った陸雄を見る。

 スコアブックを書く古川が表情を曇らせる。

 何か悪い予感がするような表情だった。


(ここにきて、リクオの球速が戻ったのはありがたいが―――それが大きく外れたボール球では次から入れることを意識させなっければ―――)


 ハインが二球目のサインを送る。

 陸雄が頷いて、構える。

 打者が構えると―――セットポジションで投げ込む

 指先からボールが離れる。


(よし! 今度は滑らない!)


 真ん中低めにボールが飛んでいく。

 打者がスイングする。

 打者手前でボールが半個分落ちる。

 バットの軸下にボールが当たる。

 カキンッと言う金属音と共にボールが低く飛ぶ。

 打者が走るとショートの紫崎が横に飛ぶ。

 そのままグローブにボールが入る。


「―――アウト!」


 審判が宣言する。

 紫崎が送球する。

 陸雄が捕球して、雨に濡れながらキャッチャーボックスを見る。

 八番打者が一塁に着く前に元の打席にトボトボ戻っていく。


「よっし! 雨にちょっとずつ慣れた気がするぜ。このまま抑える」


 陸雄がボールを強く握る。。

 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「香月高校―――九番―――」


 九番打者が打席に立つ。


(雨が降ってからだ―――リクオの変化球に不安がある。気付いていないうちに立て直すか―――)


 ハインがサインを送る。

 陸雄が頷いて、構える。

 打者が構えて―――陸雄が投球モーションに入る。

 指先からボールが離れる。

 真ん中と外角の間のコースの低めにボールが飛んでいく。


(ストレート? 下位打線だからって―――舐めるなよ!)


 九番打者がスイングする。

 バットの軸上にボールが当たる。

 カコンと言う金属音で内野にボールが浮く。

 セカンドの九衛が内野フライを処理する。

 そのままグローブにボールが入る。


「―――アウト!」


 審判が宣言する。


「くっそ! 雨が無ければあんな球―――!」


 九番打者が悔しさを口に出し、ベンチへ戻る。

 九衛が陸雄に送球する。

 ハインがその間に考え込む。


(ストレートのコースがズレている―――レガースの色を左右変えているとはいえ、制球に危うさがあるな)


 陸雄が捕球したのをハインが確認する。



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