第554話
ウグイス嬢のアナウンスが流れる。
「大森高校―――五番―――ピッチャー、岸田君―――」
陸雄が右打席に立つ。
中野監督のサインを見て、ヘルメットに指を当てる。
佐伯がサインを送る。
(この場面は佐伯のリードにに任せるか―――正直どれも打たれそうな気がするしな。ピッチャーの勘って、やつだが―――)
切間がそう思い、サインに頷く。
陸雄が構える。
雨が強く降る。
切間がセットポジションで投げ込む。
指先からボールが離れる。
リリース直後に空中でわずかに水飛沫が飛ぶ。
外角高めにボールが飛んでいく。
(くっそ! 雨が強くなってイマイチボールが見えねぇ!)
陸雄が見逃す。
佐伯のミットにボールが入る。
「―――ストライク!」
球審が宣言する。
スコアボードに135キロの球速が表示される。
(相手打者がストレートに手を出してこない? 雨で―――見えていなのか?)
佐伯が返球する。
切間が捕球して、構える。
佐伯がサインを送る。
陸雄が構えを解かずに集中する。
切間が頷いて、セットポジションで投げ込む。
指先からボールが離れる。
(この感触―――滑りが雨で悪化してきているな―――)
切間がそう思った時には―――真ん中高めにボールが飛んでいく。
陸雄がタイミングを合わせて、スイングする。
打者手前でボールが左に小さく曲がる。
バットの軸下にボールが当たる。
(ちきしょう! タイミングは良いのに―――ボールの位置があやふやだ!)
カキンッと言う金属音と共にボールが低く飛ぶ。
サードが塁から離れて、ボールを捕りに走る。
ぬるかるんだ地面に落ちる前に捕球する。
「―――アウト!」
審判が宣言する。
サードライナーで陸雄がアウトになる。
(雨の試合は初めてだけど、こんなにも視界が悪いのかよ―――)
陸雄が打席から離れる。
ウグイス嬢のアナウンスが流れる。
「大森高校―――六番―――ファースト―――星川君―――」
左打席に星川が立つ。
ベンチの中野監督のサインを見て、ヘルメットに指を当てる。
そのままマウンドを見て、構える。
(雨が強くなってきましたね―――ここで僕が打たないと―――)
(雨の中であまり球数を増やして目を慣れさせるわけにもいかないか―――)
佐伯がサインを送る。
構えた切間が頷いて、セットポジションで投げ込む。
指先からボールが離れる。
外角高めにボールが飛んでいく。
(恐らくストレート! ―――打つしかないです!)
星川がタイミングを合わせて、スイングする。
ボールがバットの軸上に当たる。
カキンッと言う金属音と共にボールが高く飛ぶ。
星川がバットを捨てて、走る。
錦が走らずに一塁に止まる。
星川が気づいて、足を止める。
そのまま外野を見る。
レフトがフライを処理した姿が目に映った。
「―――アウト!」
審判が宣言する。
「―――ダメでしたか。灰田君が頼りですが、ここでアウトになると1点差不利のまま九回になる―――」
星川がバットを拾って、ベンチに戻る。
レフトから中継されたボールをショートが切間に送球する。
「よし! あとは下位打線だ。楽に抑えられる。勝ちは見えて来たぜ」
切間が捕球して、安堵の笑みを見せる。
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