第553話


 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「大森高校―――三番―――セカンド―――九衛君―――」


 九衛が左打席に立つ。


「がっはっはっ! 雨でも俺様は強い! それを証明してやろう!」


 中野監督のサインを見て、高笑いする。

 ヘルメットに指を当て、すぐに構える。

 佐伯がサインを送る。

 切間が頷いて、セットポジションで投げ込む。

 指先からボールが離れる。

 真ん中低めにボールが飛んでいく。


「―――雨で軌道が見える! 俺様の視力を舐めるなよ!」


 九衛がタイミングを合わせて、スイングする。

 打者手前でボールが右に曲がりながら落ちる。

 バットの軸にボールが当たる。


「こいつ! 雨でも強いだと―――!」


 切間が声を漏らす。

 カキンッと言う金属音と共にボールが高く飛ぶ。

 ハインと紫崎が走る。

 バットを捨てて、九衛も一塁へる走っていく。

 レフトが外野フェンスにぶつかったボールを拾いに行く。

 ハインが三塁に遅めだが走る。

 レフトがボールを拾って、送球する。

 サードが構える。


「イチかバチか―――」


 ハインが三塁にスライディングする。

 泥水が飛び散りながら滑るように塁にスパイクが触れる。

 サードのグローブにボールが入る。


「―――セーフ!」


 塁審が宣言する。

 紫崎が二塁を踏む。

 九衛が早めに一塁を蹴り上げる。


「がっはっはっ! 雨は雨で走塁のコツがあるのさ!」


 九衛が高笑いしながら、通過した一塁に戻る。

 ノーアウト満塁の中でサードが送する。


「こいつら―――雨でも安定感あるな。俺の投球を詠んでやがる―――あの監督の采配か?」


 切間が悔し気に捕球する。

 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「大森高校―――四番―――レフト―――錦君―――」


 錦が右打席に立つ。

 佐伯が立ち上がる。

 ベンチの中野監督が誰言うわけでもなく声を出す。


「1点差で次のイニングに流すつもりか―――雨が続けば厳しい流れになるな―――」


 古川がネクストバッターサークルの陸雄を見る。


「陸雄君は雨の野球は初めてですよね?」


「ああ、岸田では正直荷が重い―――九回で2点返して、抑える―――この戦術で行くしかないな」


 中野監督と古川が話す中で―――星川がベンチでバットを持つ。


(雨は僕にとっても初めての野球―――良いイメージを持つためにも打ちに行きたい!)


 星川がそう思う中で―――切間が四球目のボール球を投げる。


「―――ボールフォア!」


 球審が宣言する。

 錦がバットを捨てて、一塁にランニングする。

 ハインが入れ替わりでホームベースを踏む。

 大森高校に11点目が入る。

 紫崎が三塁へ―――。

 九衛が二塁に移動して―――錦が一塁を踏む。

 佐伯が返球する。

 切間が捕球して、構える。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る