第542話


 佐伯が返球する。

 切間が捕球して、すぐに構える。

 そのままサインを待たずにセットポジションで投げ込む。

 指先からボールが離れる。

 真ん中にボールが飛んでいく。

 陸雄のバットが僅かに動く。

 打者手前でボールが右に曲がる。


(このカーブは敢えて捨てる―――監督、そうでしょ?)


 佐伯のミットにボールが収まる。


「―――ストライク!」


 球審が宣言する。

 スコアボードに132キロの球速が表示される

 佐伯が返球する。


(さぁて―――中野監督のサインどうりなら次だな)


 陸雄が構えを解かない。

 切間が捕球して、すぐに構える。

 そのままセットポジションで投げ込む。

 陸雄がジッと観察する。

 指先からボールが離れる。

 外角やや低めにボールが飛んでいく。


(―――来た! ここ!)


 陸雄がタイミングを合わせて、スイングする。

 打者手前でボールが左に小さく曲がる。

 バットの軸にボールが当たる。


「なんだと!? こいつ!」


 切間が声を漏らす。

 カキンッと言う金属音と共にボールが高く飛ぶ。


(やっぱりスライダーを投げて来た!)


 バットを捨てて、陸雄が一塁に走る。

 三塁の紫崎がホームベースに走る。

 錦が二塁へ走り―――九衛が三塁へ向かう。

 ボールは一二塁間を抜けていく。

 ライトが後方に走る。

 ライトの定位置と外野フェンスの間にボールが落ちる。


「フッ、点を頂いていくぜ!」


 紫崎がホームベースを踏む。

 大森高校に8点目が入る。

 ライトがボールを拾い上げて、二塁に送球する。

 九衛が三塁を踏み終える。

 陸雄が一塁を蹴り上げる。

 セカンドがボールを捕球する前に―――。

 錦が二塁を踏む。


「―――セーフ!」


 塁審が宣言する。

 ノーアウト満塁が続いていく。

 一塁の陸雄が嬉しそうに声を出す。


「しゃあ! イケるぜ! アクアワールドの借りは返したぜ!」


 切間が聞こえていたのか、悔し気にしわを寄せる。


「―――っち! あんな奴に! 佐伯!」


 切間が声を上げる。

 佐伯が頷く。

 切間が佐伯にリードを任せることへの肯定だった。



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