第524話


 監督がサインを送る。

 切間が頷いて、佐伯を見る。

 そのまま右足でスパイクをマウンドで二回足踏みする。

 そのサインで佐伯が苦い顔をする。


「今の監督も切間さんも本当に志が低いっすよ―――」 


 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「大森高校、一番―――キャッチャー、ハイン君―――」


 ハインが右打席に立つ。

 佐伯が立ち上がる。


「えっ? 敬遠!」


 ベンチの陸雄が声を出す。

 ネクストバッターサークルの紫崎がフッと笑う。


「フッ、打席で不調の俺に的を絞ってきたか―――」


 切間が次々とボール球を投げていく。

 ハインがバットを下ろす。

 四球目が佐伯のミットに入る。


「―――ボールフォア!」


 球審が宣言する。

 ハインがバットを捨てて、一塁にランニングする。

 同じく灰田が二塁に移動する。

 ツーアウト、ランナーが一、二塁―――。

 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「大森高校―――二番―――ショート――紫崎君―――」


 紫崎が右打席に立つ。

 切間が捕球して、構える。

 中野監督がサインを送る。

 それを見た紫崎がヘルメットに指を当てる。

 佐伯が切間をジッと見る。


(解ってるよ。おめーのリードに任せりゃ良いんだろ? 打たれたら俺の好きに投げるからな)


 切間が頷いて、構える。

 紫崎がバットを構える。

 佐伯がサインを送る。

 切間が頷いて、セットポジションで投げ込む。

 指先からボールが離れる。

 ボールが真ん中低めに飛んでいく。

 紫崎がスイングする。

 打者手前で右に曲がりながら落ちる。

 タイミングが早めのこともあってかバットの下をボールが通過する。

 佐伯のミットにボールが収まる。


「―――ストライク!」


 球審が宣言する。

 スコアボードに127キロの球速が表示される。

 佐伯が返球する。


「フッ、参ったね。どうもここに来て、不調のツケがきたか―――」


 紫崎が構え直す。

 切間が捕球して、構える。

 佐伯がサインを出す。

 切間が頷いて、投球モーションに入る。

 指先からボールが離れる。

 外角高めにボールが飛んでいく。


「フッ、ボール球だな」


 紫崎が見送る。

 打者手前でボールが変化しない。

 佐伯のミットが動いて、捕球する。


「―――ストライク!」


 球審が宣言する。

 際どいコースだが、ボール球ギリギリのストレートだったようだ。

 スコアボードに136キロの球速が表示される。

 佐伯が返球する。

 切間が受け取り、構える。

 紫崎が構えを解かずに集中する。




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