第515話


 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「大森高校―――五番―――ピッチャー、岸田君―――」


 陸雄が右打席に立つ。


(相手はムカつくけど、強い投手だ。九衛とハインが頑張ってんだ。投手以外で俺も打たなきゃな)


 陸雄が中野監督のサインを見て、ヘルメットに指を当てる。

 そしてすぐに構える。

 切間がサインを見ずにセットポジションで投げ込む。

 指先からボールが離れる。

 内角低めにボールが飛んでいく。


(スラーブか!?)


 陸雄がタイミングを合わせて、スイングする。


(バーカ! スライダーだよ)


 切間がニヤッと笑う。

 打者手前でボールが左に曲がりながら落ちる。

 バットの軸下にボールが当たる。

 打球はサードライナーで飛んでいく。

 サードが捕球する。


「―――アウト!」


 審判が宣言する。


「くっそー! スライダーの球速を遅めにして、騙しやがったな」


 陸雄がバットを持ったままベンチに戻る。


「コラー! 雑魚チェリー! 初球で釣られるんじゃねぇぞ。俺様と錦先輩をしっかり返せ。星川君に余計な仕事を増やさせるな!」


 一塁の九衛が大声で怒鳴る。

 陸雄が反論できずに悔し気にベンチに戻る。

 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「大森高校―――六番―――ファースト―――星川君―――」


 左打席に星川が立つ。

 中野監督のサインを見て、ヘルメットに指を当てる。


「よーし! ここで満塁にして灰田君に繋げますよー!」


 星川が構える。

 サードからボールを貰った切間が構える。

 佐伯のサインを見ずにセットポジションで投げ込む。


(くっ! 俺達本当にバッテリーとして機能してるんすっか?)


 佐伯が苛立ちを隠して、ミットを構える。

 指先からボールが離れる。

 外角低めにボールが飛んでいく。

 星川が見送る。

 打者手前でボールが左に曲がりながら小さく落ちる。

 佐伯のミットにボールが収まる。


「―――ストライク!」


 球審が宣言する。


(今のが切間さんのスライダーですか―――陸雄君と似てるけどちょっと落ち方が若干違うかな?)


 星川がマウンドを見る。

 スコアボードに135キロの球速が表示される。

 佐伯が返球する。

 切間が捕球して、構える。

 星川が構える。

 その時―――切間が投球モーションに入る。


(迷いがないですね。投手任せの投げ方だ―――)


 星川がジッと観察する。

 指先からボールが離れる。

 真ん中にボールが飛んでいく。

 星川がタイミングを合わせて、スイングする。

 打者手前でボールが左に落ちながらスライダーよりも深く落ちる。


「―――スラーブきましたか!」


 バットの軸上にボールが当たる。

 カキンッと言う金属音と共にボールが高く飛ぶ。

 レフト上空にボールが飛び。

 星川がバットを捨てて、一塁に走る。

 レフトの三岳が予測のコースに止まり。

 グローブを上げる。

 そのままボールがグローブに吸い込まれるように入る。


「―――アウト! チェンジ!」


 審判が宣言する。

 星川が一塁手前で止まり、レフトを見る。


「スラーブ打てたけど、レフトフライですかぁ」


 星川がバットを取りに打席に戻る。

 錦と九衛も塁からベンチに戻る。


「同点のまま四回裏か―――ちと苦い展開になってきたな」


 九衛がそうボヤいて、ベンチに戻る。

 三岳から送球されたボールをマウンドに置いて―――切間もベンチに戻る。

 四回表が終わり―――。

 5対5の同点のまま、香月高校の攻撃が始まる―――。




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