第504話


 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「大森高校―――八番―――サード―――大城君―――」


 大城が左打席に立つ。

 切間が脱力して、構える。


(まぁ、いい―――どうせ八番と九番はパンピー以下のチンカス君達だ。これ以上点も取れんだろうよ)


 佐伯がサインを出す前に切間が投げ込む。

 真ん中やや高めにボールが飛んでいく。

 大城がボケッとバットを構えたまま微動だにしない。


「―――ストライク!」


 球審が宣言する。

 ストレートボールがミットに入る。

 スコアボードに113キロの球速が表示される。

 佐伯が返球する。


「なんでこんなはなちょこがレギュラーなんだか―――」


 切間がボヤキながら捕球する。

 そのまま二球目を投げる。

 同じコースにボールが飛んでいく。

 大城がくしゃみをして、見逃す。


「―――ストライク!」


 球審が宣言する。

 スコアボードに106キロの球速が表示される。

 佐伯が返球する。


「これが大森高校のかつての姿なのに―――なんで五回戦までこれたんだか―――」


 切間がブツクサ言いながら捕球する。

 そのままサインを待たずに指先からボールが離れる。

 同じコースにボールが飛んでいく。

 大城が三塁側ベンチのマネージャーをジッと見る。


「メンソーレ! 幼い顔立ちの可愛いマネージャーサー!」


「―――ストライク! バッターアウト!」


 大城の言葉を球審がかき消す。

 スコアボードに124キロの球速が表示される。

 佐伯が返球する。

 切間がデカいため息をついて、捕球する。

 大城が相手マネージャーをチラチラ見ながら、ベンチに戻っていく。

 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「大森高校―――九番―――ライト――駒島君―――」


 駒島が左打席に立つ。


「ワシは大城とは違うのだよ大城とは!」


 駒島が構える。

 一塁の灰田が腰に手を当てる。


「ツーアウトで長野のキモデブじゃあせっかくの満塁も無意味だな。ったく、ヘッドスライディングまでしたってのによ」


 灰田がそう言いつつ、投球モーションに入った切間を見る。

 指先からボールが離れる。

 駒島がやけくそ気味にスイングする。

 真ん中にまっすぐボールが飛んでいく。

 その瞬間―――。

 バットの上部にボールが当たる。


「えぇ…………」


 切間が声を漏らす。

 カコンッと言う金属音と共にボールが高く浮き上がる。

 ピッチャーフライだった。

 切間がフライ処理に入り―――。


「―――アウト! チェンジ!」


  審判の宣言と共にボールを処理した。


「一球で済ませるだけ八番より楽かもな。どんぐりの背比べだけど―――」


 切間がそう言って、マウンドにボールを置く。

 守備メンバーが三塁側ベンチへ―――。

 ランナー達と打者が一塁側ベンチに戻っていく。




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