第480話


 ボールを受け取った切間が構える。

 佐伯のサインを無視して、セットポジションに入る。

 紫崎がジッと観察する。

 指先からボールが離れる。

 外角高めにボールが飛んでいく。

 紫崎がタイミングを合わせて、スイングする。

 打者手前でボールが右に曲がりながら落ちていく。


「フッ、やはりカーブ!」


 バットの軸にボールを当てる。


「―――何だと!?」


 切間が声を漏らす。

 カキンッと言う音と共にボールが左中間に飛んでいく。

 

「センター、レフト! 援護しろ! 打たれた俺に恥をかかせるな!」


 切間が叫んで指示を出す。

 バットを捨てた紫崎が一塁に走る。

 センターとレフトの三岳がボールを追って、走る。

 紫崎が一塁を蹴り上げる。


「―――ボールは?」


 紫崎が外野手を見る。

 レフトの三岳が高めのボールをグローブを上げて、捕球する。


「―――アウト!」


 審判が宣言する。

 紫崎が一塁からベンチに戻る。


「フッ、崩せる機会を無くしたか―――良い守備しているな」


「三岳キャプテン! ありがとうございます!」


 佐伯が声を上げて、感謝する。

 三岳がセカンドに中継する。

 受け取ったセカンドが切間に送球する。

 無言でボールを受け取った三岳がホッとする。


「やっぱしょぼい相手だ。どうせ1,2点しか取れずに大差負けだろうよ」


 切間がそう言って、キャッチャーボックスを見る。

 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「大森高校―――三番―――セカンド―――九衛君―――」


 九衛が左打席に立つ。


「さーて、俺様にスラーブ投げてくっかな?」


 そう言って、ベンチを見る。

 中野監督がサインを送る。


(初球に遅めの変化球で来たら、次はストレート騙しのスライダーかスラーブが来る。その中で打てる球だけ絞れ、ね。―――了解)


 九衛がヘルメットに指を当てる。

 そしてゆっくりと構える。


(切間さん。こいつは今大会で安打を大量生産してます。まずは難しいコースのストレートでカウント取りましょう)


 佐伯がサインを送る。


(だからお前はダサいんだよ。同じ速度のスライダーで一気にたたみかけるからミット構えてろや)


 切間がそう思い―――首を振る。

 佐伯が悔し気にミットを構える。


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