第477話

 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「後攻の香月高校、ノックをお願いします。時間はボール回しを含めて七分です」


 中野監督が相手校のノックを見る。


「去年対戦した時よりは有力な三年生が減った分、勢いが落ちてはいるが―――それでも十分良い連携だ」


 中野監督がそう言って、腕を組む。


「長い試合になるな―――天候が悪いのも気になる。雨が降るという予報があったが、それまでに試合が終われるか、どうかか―――」


 そう言っているうちに七分が経つ。

 両校整列の時間になる。


「さぁ、お前達行ってこい!」


 中野監督の言葉でメンバーが打席前に並ぶ。

 両校のノックが終わり、試合開始前に整列する。 


「「お願いします!」」


 両校のメンバー全員が頭下げる。

 


 試合は始まった―――。

 香月高校野球部が守備位置に着き。

 ハインが右打席に立つ。

 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「一回の表―――大森高校の攻撃です。一番―――キャッチャー、ハイン君―――」


 中野監督がサインを送る。

 ハインがヘルメットに指を当てる。


(ナカノ監督のサインの通り―――切間は前半は温存したがる。その隙を突け―――決め球は変化球で来る、か―――)


 ハインが構える。

 捕手の佐伯がサインを送る。

 切間が首を振る。


(切間さん―――こいつは強打者ですよ? 俺のリードに従ってください)


 佐伯がミットを構える。

 切間が構える。


(一年坊に速球で脅かせば、ビビって打てもしねーよ。ったく、お前のリードはいつもしょぼいんだよ)


 切間が投球モーションに入る。

 ハインがジッと観察する。

 指先からボールが離れる。

 内角高めにボールが飛んでいく。

 ハインがボールを避ける。

 佐伯のミットにボールが入る。


「―――ボール!」


 球審が宣言する。

 スコアボードに135キロの球速が表示される。


「へへっ! 今ので恐怖心をぶつけたスイングは遅れるぜ」


 切間が嫌な笑みを浮かべる。


(切間さん、もしかしてワザとストレートをぶつけようと?)


 ふと思った佐伯が返球する。

 ハインが元の姿勢に戻す。


(キリマはリクオと同じセットポジションのフォームだが、今のは煽りの一球か―――こういう時のピッチャー心理は大体読める)



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