第458話
揺れるバスの中で―――大森高校のメンバーは雑談が絶えなかった。
「いやー、ついに五回戦まで来たな。折り返しじゃねぇか。なーんか気が楽になったわ」
灰田が楽しげに話す。
「錦先輩以外はほぼ一年だけで今年の夏の大会のベスト16に選ばれたんだもんね~。ビックリ~」
松渡が灰田に返す。
「フッ、ここまで来たら優勝を狙って、甲子園に行きたいな」
紫崎が会話に参加する。
「紫崎君―――何言ってるんですか? 僕達は今年に絶対甲子園行くんですよ! 僕のメジャーリーガーへの新たなる一歩です。この大会で得られるものを全部取るつもりで挑むんですよ」
星川が熱を持って、話す。
「がっはっはっ! 星川君はやる気がいつもあってええのう! 金髪たちは今年の九月に辞めるから、今年に甲子園に行ってくれないと割に合わないしな。そのためにも雑魚の金髪と強い松渡と紫崎に頑張ってもらわないとなぁ。特に金髪は坂崎にしっかりリードを教えろよ。じゃなきゃ殺すからな! がっはっはっ!」
九衛が高笑いで楽し気に話す。
ハインがチョコレートを食べながら答える。
「レンジ―――モグモグ……オレだけに……モグ……厳しく―――モグモグ…………」
「ハイン。食べるか話すかどっちかにしろ」
陸雄がハインにツッコミを入れる。
「で、でも五回戦からは相手も残り16校―――つ、強い高校だけしか残らないんだよ? ぼ、僕達で勝てるか難しいよ」
坂崎が不安げに話す。
「坂崎の言うとおりだ。お前達の次の相手は兵庫四強の一校だからな」
中野監督がそう言って、前列の席から立ち上がる。
古川マネージャーが次の対戦校の説明に入る。
「昨日の試合で勝った私立香月高校(かげつこうこう)の説明に入ります。ベスト4の常連で過去に甲子園にも何度か出場した兵庫四強の一校です」
古川が立ち上がり、説明を続ける。
「打力と投手に力を入れているチームです。戦術もバランスが良く。安定した成績を収めています。毎年外国人選手のスカウトもあり、練習施設も充実しています」
古川の説明に隣の席の同じマネージャーの柊が質問する。
「先輩。越境した野球留学の外国人選手の中で注目するべき選手はいますか?」
その言葉に古川が頷いて、メンバーに説明する。
「四番は外国人選手のレギュラー捕手で一年生の佐伯大吾(さはくだいご)君です。香川県の名門シニア選手で今大会で本塁打は少ないですが、出塁率は高いです」
松渡が関心して、話す。
「僕達と同じ一年生で捕手で四番を務めているのか~。そりゃ強い~」
古川が間を置いて、説明を続ける。
「佐伯君は投手のリードも上手く。相手のスクイズを抑えることでも有名です。投手の速球にも耐えられる上に選球眼を持っています」
古川の説明に灰田が冷や汗をかく。
「俺らと同じ一年生の佐伯大吾(さはくだいご)か―――いっきに五回戦からエグい奴が出て来たな」
柊が話に入る。
「だけど去年と今年はやや不作の時期らしくて、他の県の名門校や他の兵庫四強に外国人選手を取られたら、まだ弱めの方だよ。一年生の佐伯君が四番になったのも打率が弱くなってるっていうのもあるよ」
「弱めでそんな選手が四番に入るのか、兵庫四強ともなると今までの相手のようにはいかないかもな」
陸雄がそう言って、緊張する。
古川が説明を再開する。
「次に三番打者を今大会で任させている同じく外国人選手の京都名門シニア出身の三岳羚児(みたけれいじ)は打率と守備が優秀です。ポジションはレフトでキャプテン―――スイッチヒッターです。本塁打は少ないですが、出塁率と足は速いです。今大会での四球は6回です」
―――スイッチヒッター。
野球では、投手の利き腕に対し反対側の打席に立つ打者をそう呼ぶ。
有利な理由として、ピッチャーのリリースポイントが見やすい。
またカーブやスライダーなどの外に大きく逃げる変化球が来ない。
そしてピッチャーのすっぽ抜けたボールが体に向かってこないため恐怖感を感じにくい。
―――などの理由で有利である。
このためスイッチヒッターは、一般的には相手が右投手の場合は左打席に、左投手の場合は右打席に立つ。
コンパクトスイングが多く―――ヒットなど単打を目的とした力みの無いスイングをするのが特徴である。
「普通に強いな。俺の変化球がチェンジアップ以外にあまり通用しないかもな」
スライダーとカーブを持つ陸雄が声を漏らす。
同じくカーブを持っている灰田も黙り込む。
ハインが陸雄達に答える。
「安心しろ。リクオ、コースはある程度対策で変えておく。制球と球速をいつも通りに投げ込んでくれれば抑えられる」
「ハイン……すまない……」
陸雄が申し訳なさそうにハインに話す。
重い雰囲気になりそうだったので、マネージャーの柊が話題を変える。
「ちなみに三岳君は成績優秀で努力家の人だよ。誰とでも分け隔てなく話せる人気者でどんなことにも我慢強く―――温厚な眼鏡の人だよ。それと京都の大学教授の息子さんだよ。将来は大学教授になるために京都の大学の進学のために勉強してるんだよ」
星川がその話題に乗る。
「それなら三岳君は大学院生になるから、大学入ったら野球しないでしょうね。いやー、勝負できるのはもしかしたら今年だけかもしれませんね。是非打席勝負してみたいです!」
「あっ、大学院生って星川君良く知ってるね。お父さんが教授をしている大学に入るために勉強はしっかりしてるみたいだよ。成績も優秀で中学時代の全国模試でも上位に入っていたし、寮生でキャプテンもやってるから文武両道でカッコいい人だよ」
柊が楽し気に話す。
中野監督がその話題に入る。
「三岳はスポーツクラスだが、偏差値の高い香月高校(かげつこうこう)の特進クラスに引けを取らない頭脳を持っている。その分体力と集中力も高い。引退をするの今年だけだ。その後は三年初めに寮生のまま特進クラスに入るだろう。つまり今大会に力を入れてくる。気を引き締めろよ」
「「はいっ!」」
メンバーが声を上げる。
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