第452話


 久遠寺が構え直す。


(打てる変化球に余計な力が入りましたか―――僕もまだまだですね)


 陸雄がホッとする。


(カーブを早めのスイングだけど、捉えてた。次は打たれる気がする―――どうするハイン?)


 新しくボールを審判から貰うハインを見る。

 ハインが送球して、陸雄が受け取る。

 ハインが座り込んで、サインを送る。

 陸雄が頷く。

 バットを構えた久遠寺がハインに話す。


「良いバッテリーですね。でも打ちますよ」


 ハインがミットを構えて、答える。


「クオンジ―――その片鱗をみせてやろう」


 陸雄が投球モーションに入る。

 久遠寺がジッと観察する。

 指先からボールが離れる。

 外角の真ん中にボールが飛んでいく。


「この速さなら―――球種は詠めます!」


 久遠寺がタイミングを合わせて、フルスイングする。

 打者手前でボールが左に小さく曲がる。


「―――これはっ!?」


 久遠寺がハッとする。

 その時にはバットがボールの上を空振る。

 ハインのミットにボールが収まる。


「―――ストライク! バッターアウト!」


 球審が宣言する。


「ドネルケバブの味―――思い出したかい?」


 陸雄が呟く。

 それは陸雄のこの試合で見せていない高速スライダーだった

 スコアボードに135キロの球速が表示される。


「見事です―――ハインさんと陸雄さん―――」


 久遠寺がそう言って、笑顔で打席を離れる。


(切り札を使って、予想通りに攻略できたか。今後の課題も出来たな。ナカノ監督に言って―――今後のリクオの練習課題にしよう)


 ハインが返球する。

 陸雄が捕球して、二ッと笑う。


「チェリー! ツーアウトだ。山田に回すなよ!」


 セカンドの九衛が声を出す。


「陸雄君。野球はツーアウトからが長いんです。しっかり投げてくださいね」


 星川がそう言って、構える。


「フッ、抑えれば―――俺達のこの試合での夢の時間の終わりだな」


 ショートの紫崎が構える。


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