第444話


 三塁に紫崎が移動し―――。

 二塁を九衛が踏む。

 そして錦が一塁を踏んだ。

 

「さーて、勝ち越しで俺の打順―――二刀流だからこそ追加点いただくぜ」


 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「大森高校―――五番―――ピッチャー、岸田君―――」


 陸雄が右打席に立つ。

 中野監督がサインを送る。


(変化球は振らずに良く見ておけ。了解―――)


 陸雄がヘルメットに指を当てる。


(さぁ! 勝負だぜ―――速水!)


 陸雄が構える。

 山田がサインを送る。

 速水が首を振る。


(満塁で初めての奴じゃんか?)


(……抑えるから……問題ないさ……)


 山田が不安げにミットを構える。

 速水が投球モーションに入る。

 陸雄がジッと観察する。


(まずは一球見ておくか―――同じサウスポーでもはじめんよりは早めなフォームだな)


 指先からボールが離れる。

 真ん中低めにボールが飛んでいく。

 陸雄が見送る。

 打者手前でボールが左に浮いて―――落ちる。

 山田のミットにボールが入る。


「―――ストライク!」


 球審が宣言する。

 スコアボードに113キロの球速が表示される。


(今のがシンカーか―――古川マネージャーの投球練習で散々見たけど、サウスポーだとだいぶ違ってくるな)


 陸雄がそう思い、構えを解かない。

 山田が返球する。

 速水が捕球して、すぐに構える。

 山田がサインを送る前に―――。

 速水が投球モーションに入る。


(早いな―――! 何を投げるんだ?)


 陸雄がジッと観察する。

 速水の指先からボールが離れる。

 外角やや高めにボールが飛んでいく。


(おそらく変化球―――見ておこう)


 陸雄が見送る。

 打者手前でボールが左に急激に落ちる。

 山田がミットで辛うじて捕球する。


「―――ストライク!」


 球審が宣言する。

 スコアボードに132キロの球速が表示される。

 陸雄が構えを解いて、軽くバットを回す。


(んで、あれがスクリューか―――大体のとこは解った。真伊已のパームボールのこともあるし、あいつの変化球はこれで全て見せて貰ったようなもんだな)


 山田が返球する。

 速水が捕球して、少し考え込む。


(打つ気配が二球とも感じられなっかたさ……ストレート待ちか……?)


 陸雄が構えると同時に―――。

 速水も考えるのを止めて、構える。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る