第442話


 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「大森高校―――二番―――ショート―――紫崎君―――」


 紫崎が右打席に立つ。


「投手にとって七回は厳しい場面だ。紫崎―――その隙を突け―――」


 中野監督がベンチにしか聞こえない声でサインを送る。

 紫崎がフッと笑う。

 そしてヘルメットに指を当て、構える。

 山田がサインを送る。

 速水が頷いて、投球モーションに入る。

 指先からボールが離れる。

 外角高めにボールが飛んでいく。


「フッ、やはりか―――」


 紫崎がタイミングを合わせて、スイングする。

 ボールは変化せずにバットの軸に当たる。


「ストレートを読まれていた……なんなんだこいつら……冗談じゃねぇ……devil(デビル)かよ……!」


 速水が怯える。

 カキンッという金属音と共にボールが左中間を抜ける。

 一塁のハインが二塁に走る。

 紫崎がバットを捨てて、一塁に向かう。

 レフトとセンターのやや後方の間にボールが落ちる。

 センターがボールをグローブで捕る。

 ハインが二塁を踏む。

 センターがファーストの久遠寺に送球する。

 久遠寺にボールが入る前に―――。

 紫崎が一塁を蹴り上げる。

 そして久遠寺のグローブにボールが入る。


「―――セーフ!」


 塁審が宣言する。

 一塁側スタンドから歓声が上がる。


「キャプテン。ここで意地を見せて抑えに行きましょう! 気持ちで負けたら駄目ですよ」


 久遠寺が速水に送球する。


「……わかってるさ……」


 速水が捕球して、深呼吸する。


「数人! どうした! どうしたぁ! お前の投球はこんなもんじゃねーぞ!」


 白石高校ベンチの速水の父親である監督が声を上げる。


「OYAJI(おやじ)の奴……恥ずかしいぜ……冗談じゃねぇ……!」


 速水がイラつきながら、白石高校のベンチを睨む。

 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「大森高校―――三番―――セカンド―――九衛君―――」


 右打席に九衛が立つ。

 速水の様子を見た中野監督がサインを送る。


「ほーん。なるほどねぇ。俺様に有利な状況になると―――初球も読めたか―――流石は兵庫四強の名将様だぜ」


 そう言った九衛がヘルメットに指を当てる。

 そして不敵な笑みを浮かべて―――構える。




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