第437話


 久遠寺が可愛らしい笑顔で答える。


「いえいえ―――九衛さんと錦さんには敵いませんよ」


「へっ! 認めながらも投手三人相手にしっかり結果を残すか―――えげつないことで」


 陸雄がボールを捕球して、言葉を交わしている九衛と久遠寺を見る。


「やっぱ外国人選手は強いな。久遠寺。次は負けないぜ!」


 陸雄がそう言って、打席を見る。

 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「白石高校―――二番―――」


 二番打者が打席に立つ。

 相手校の監督がサインを送る。

 打者が頷き、バットを一回転させる。

 それを見た久遠寺がリードを取っていく。

 陸雄が闘志を燃やして、構える。


(リクオの調子がまだ危うい。変化球はなるべくここらでは出しにくいが―――)


 ハインがサインを送る。

 陸雄が頷いて、セットポジションに入る。

 指先からボールが離れる。

 その瞬間―――。


「チェリー! 金髪! スチールだ!」


 セカンドの九衛が大声を出す。

 ハインがハッとする。


「―――しまった!」


 投げ終えた陸雄が後ろを見る。

 久遠寺が三塁に走る。

 相手の打者が遅めの投球を見送り―――。

 打者手前でボールが半個分落ちる。

 ハインがキャッチした後に打者がバットを振る。

 バットがハインの視界の死角となり―――。

 振り切った後に―――目で久遠寺を確認する。


「―――くっ!」


 ハインが立ち上がって、送球する。

 三塁を踏んだショートの紫崎が捕球体制に入る。

 僅かな遅れで久遠寺が三塁を踏み終える。

 紫崎のグローブにボールが入る。


「―――セーフ!」


 塁審が宣言する。

 久遠寺の盗塁は成功する。

 ベンチの中野監督が目を少し細める。


「速水監督の策か一本取られたな―――だが、スクイズの可能性は薄いな」


 そう言い終えて、グラウンド全体を見る。

 紫崎が陸雄に送球する。


「フッ、ホームスチームは無いぞ」


 陸雄が捕球して、そう言った紫崎に頷く。

 そのまま打席を見る。


(チェンジアップは初めから打つ気配がない。ここらで変化球に頼りだすのも厳しいだろう)


 ハインがサインを送る。

 陸雄が頷いて、投球モーションに入る。

 指先からボールが離れる。

 内角高めにボールが飛んでいく。


(さっきよりは速いが―――打てるぜ)


 打者がスイングする。

 バットの軸にボールが当たる。

 カキンッという金属音と共にボールが二遊間に飛んでいく。

 陸雄の上空にボールが飛んでいく。


「不味い! 紫崎! 九衛!」


 セカンドの九衛がジャンピングキャッチを試みる。

 久遠寺がホームベースに走るのを止めて、三塁に戻る。

 飛んだ九衛のグローブにボールが入る。


「―――アウト!」


 審判が宣言する。

 九衛が着地と同時に久遠寺を見る。

 久遠寺は三塁を踏んでいた。


「チェリー! 俺様のありがたい援護に感謝しろよ」


「お、おう……サンキュー……」


 九衛が陸雄に送球して、捕球後に陸雄が声を出す。



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