第438話


「くっそ! ちょっとバットの位置とタイミングがやや早めだったか―――だが、久遠寺を三塁に行かせたぜ」


 二番打者がベンチに戻っていく。

 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「白石高校―――三番―――」


 三番打者が打席に立つ。

 ハインがサインを送る。


(リクオ。ワンアウトとはいえ―――同点の為のスクイズをここで上位打線に使わない。出塁して四番の本塁打かクリナップに繋ぐはずだ)


 陸雄が頷く。

 打者が構える。

 そのままセットポジションに入る。

 指先からボールが離れる。

 外角低めにボールが飛んでいく。

 相手の打者が見逃す。

 ハインのミットにボールが入る。


「―――ストライク!」


 球審が宣言する。

 スコアボードに134キロの球速が表示される。


(全力を要求したフォーシームストレートだが、いつもより3キロほど遅めか―――肩が出来ているはずだが、打たれ気味で緊張が残っているようだな)


 ハインがそう思い、返球する。

 陸雄が捕球する。

 打者が構える。


(リクオに緩急をつけさせたいが、ストレートばかりも相手に読まれやすい―――かといってここでスライダーは…………)


 ハインがサインを送る。

 陸雄が頷き、投球モーションに入る。

 打者がジッと観察する。

 指先からボールが離れる。

 真ん中低めにボールが飛んでいく。


(読めた! ここだ!)


 打者がフルスイングする。

 打者手前でボールが一個分落ちる。

 バットの軸下にボールが当たる。

 カキンッという金属音と共にボールが三遊間を抜ける。

 レフトライナーで錦が前に走り、捕球する。


「―――アウト!」


 審判が宣言する。

 走りかけた久遠寺が三塁に戻る。

 錦がショートに中継する。

 紫崎が捕球して、久遠寺を見る。

 三塁を踏んでいるので陸雄に送球する。


(チェンジアップをレフトライナーで打たれちまったが―――1点差でこっちが優位なんだ。落ち着いて行こう)


 陸雄がそう思い―――キャッチする。

 そして打席を見る。




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