第400話


 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「大森高校―――四番―――レフト―――錦君―――」


 右打席に錦が立つ。

 中野監督がサインを送る。

 錦がヘルメットに指を当てる。

 その時―――山田が立ち上がる。

 スタンドの柊が声を漏らす。


「えっ? ―――敬遠?」


 速水が悔し気な顔でボールコースに移動する山田に次々とボールを投げていく。

 球審が次々と「―――ボール」と宣言していく。

 ベンチの中野監督が腕を組む。


「これが続くなら―――1点を競う試合になるかもな」


 そう言って、四球目のボールを投げた速水を見る。

 山田のミットに四球目が入る。


「―――ボールフォア!」


 球審が宣言する。

 錦が構えを解いて、バットを置く。

 そのまま一塁に移動する。

 九衛が同じく二塁に行き―――。

 ハインは三塁を踏んだ。

 錦の敬遠でランナー満塁となる。

 ネクストバッターサークルの松渡が立ち上がる。


「ありゃ~。こりゃあ苦い試合になってきたなぁ~。僕じゃホームランは打てないんだよなぁ~」


 そう言いつつ、打席に移動する。

 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「大森高校―――五番―――ピッチャー、松渡君―――」


 左打席に松渡が立つ。

 中野監督がサインを送る。


(なるほど~、それでいくんですね~。了解~)


 松渡がヘルメットに指を当てる。

 そしてバットを握り―――構える。

 山田がサインを送る。


(こいつには初球からストレート投げるじゃんか。その次変化球で三振させるじゃんか)


 そのサインに速水が頷く。


(……そのつもりさ……)


 速水が投球モーションに入る。

 松渡がジッと観察する。


(僕と同じサウスポーだけど、ちょっとテンポが早めだな~)


 速水の指先からボールが離れる。

 真ん中やや低めにボールが飛んでいく。


「―――ここで決める~!」


 松渡がバントの構えを取る。


「スクイズじゃんか!」


 山田が声を出す。

 カコンという音と共にボールが一塁側に転がっていく。

 三塁のハインがホームベースに走る。

 九衛も三塁に走る。

 そして錦も二塁に走っていく。


「……冗談じゃねぇ……」


 投手の速水が一塁側に転がるボールを追う。

 拾う寸前にハインがホームベースを踏む。

 ハインが帰還し、4点目が入る。

 速水がボールを持って、一塁に送球する。

 ファーストが塁を踏んで捕球体制に入る。

 九衛が三塁を踏む。

 錦も二塁を余裕を持って、踏む。

 松渡が一塁に着く前にファーストのグローブにボールが入る。


「―――アウト!」


 塁審が宣言する。

 ツーアウトになり、松渡がバットを持ってベンチ戻る。


「速水先輩。こっちがリードしてるんです。落ち着いて行きましょう。スクイズくらい大した問題じゃないですよ」


 そう言ったファーストの久遠寺がが速水に送球する。

 速水が余裕を保ちながら、捕球する。




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