第372話
(流石は投手だ。カズヒトは投手だったな。俺のリードを詠んでいたか―――この試合で苦手なコースを早めに見つけなければ―――)
ハインが座り込んだまま反省する。
星川がからの送球で灰田が捕球する。
三塁側スタンドの女子高生が騒ぐ。
「きゃー! 速水くーん! カッコいい!」
お世辞にもあまり可愛いとは思えない女子高生たちだった。
「……冗談じゃねぇ……! RIKISI(力士)ブスにエール貰っても……不幸のcast(キャスト)と決まっている……!」
ベンチからチームメイトの声援が聞こえる。
「速水キャプテン、ナイスバッティング! かっこいいっすよ!」
「……冗談じゃねぇ……! angel(美少女)だけが俺に対して言っていいWord(ワード)を言うな! てめぇらhard luck(ハードラック)だな……!」
相手チームが速水の怒り気味の返しに笑って和む。
ファーストの星川が少し破顔する。
(あっちのキャプテンさん―――独特だけど、ムードメーカーなんですね。こっちまで和んじゃいました。灰田君も力抜けたかな?)
灰田が腕を一回転させる。
「まだ肩が温まってもいねぇ―――全イニング投げる訳じゃねーんだ。緩急意識して速い時は速く投げないとな」
灰田が独り言を言って、ボールを握って構える。
ウグイス嬢のアナウンスが流れる。
「白石高校―――七番―――」
七番打者が打席に立つ。
ハインが中野監督を見る。
(ハイン―――まだ朋也様に足りないものがある。ストレート縛りで援護頼りになるが援護を頼らない投手に実践を通して完成させてやれ)
中野監督がその意を伝えるサインを送る。
ハインがベンチからマウンドに顔を向ける。
灰田が冷や汗を流す。
肩が僅かに上下し、まるで大きく呼吸をしているように動く。
ハインがサインを送る。
(ハインのやつ―――またストレートかよ? 今日の俺の制球が甘いのを気にしているのか? 変化球に入る前にその調整なのか?)
灰田が考え込む。
ハインがミットを動かす。
灰田が数滴の汗をこめかみから流れていき―――そのまま顎に流れて、ポトリっと落とす。
そして歓声が上がる中で、集中して投球モーションに入る。
相手の打者がジッと観察して、バットを握る。
指先からボールが離れる。
内角低めにボールが飛んでいく。
(トモヤのコースはこちらの頼んだコースどうりだ。だが―――やや遅い―――!)
相手の打者が窮屈そうにスイングする。
「打たれるっ―――!」
灰田が声を漏らす。
カキンッという金属音と共にボールがサード方向に飛ぶ。
一塁の速水が二塁に走り―――打者がバットを捨てて、一塁に走っていく。
サードの大城がボケッとして、顎を指で掻いている。
ボールが大城の手前でバウンドする。
「メンソーレ! いつの間にかボールが来てたサー!」
ショートの紫崎が既に走っていたのか―――大城の背中が死角になってボールが隠れる。
松渡が二塁を踏んで捕球体制に入る。
打者が一塁を蹴り、速水が二塁をゆっくりと踏む。
紫崎が大城の足元にあるボールを拾う。
ランナーは既にそれぞれ塁を踏み終えていた―――。
紫崎が一塁に送球する。
星川が捕球して、塁審を見る。
「―――セーフ!」
塁審が宣言する。
「灰田君。ゲッツーもあるからワンナウトのこの状況で変えていきましょう!」
ファーストの星川がそう言って、灰田に送球する。
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