第356話
次の日の朝練の日―――。
陸雄達が準備体操を各自で終えた頃に中野監督がバットを持って、やってくる。
古川と黒髪セミロングの少女が一緒に歩く。
「あれ? 知らない女子がいますよ?」
星川が見ない顔にキョトンとする。
中野監督がメンバーの前に止まる。
女子二人も同じ場所に止まる。
「今日も早めの準備体操ご苦労。新入部員を紹介する」
「ほーん。この大会中の時期に新入部員ねぇ。マネージャーですか?」
九衛が興味深く質問する。
黒髪セミロングの少女が頭を下げる。
陸雄と灰田と松渡に紫崎は知っている顔だった―――。
「はじめまして! 一年の柊心菜(ひいらぎここな)です。中学に野球部のマネージャーの経験があるので、入部は遅くはなりましたが、よろしくお願いします!」
黒髪セミロングの少女のそう言って、頭を下げる。
頭を上げた際の胸の揺れに何人かのメンバーがドキッとする。
そのうちの一人の星川が話題を変えるように話す。
「これで二年間マネージャーありになりましたね。来年マネージャーがいるといないとでは大きく違いますしね」
「がっはっはっ!胸とお尻デカいな。ソフトボールでも出来そうだな。髪なげーけど―――」
「強面野郎。柊はウチのクラスじゃ地味だけど、体育の短距離走とかバスケ上手いんだぜ? 見かけで判断すんなよ。確かに胸とか尻がエロいけど……」
柊がそれらを聞いて、微妙ななんとも言えない表情をする。
(思ったよりも女子相手にもオープンな部活なんだ―――でも試合で勝ち続ければ彼に会えるし、頑張ろう!)
中野監督がバットを灰田に向ける。
「朋也様。失礼な発言だぞ。罰として肩車の相手は私にするぞ。女子を見るのは私のナイスなバディだけにしておけよ」
「いや、すんません。ほんと勘弁してください。ってか、強面野郎……いえ、九衛君には罰無しなんっすね。差別じゃないっすか? ってか、女子って年じゃ……いえ、何でもないっす……」
灰田がうんざりして、低いテンションで話す。
「柊は今日だけ古川からマネージャーの仕事を教わるが、今日の夕方からランチ付きで古川の投球練習も増える」
一年メンバーが「おおっ!」と嬉しそうな声を出す。
今まで手製の弁当やコンビニ飯を買ってきて、休憩時間に食べていたので節約が出来ると喜んでいた。
予備のユニフォームの洗濯もしてくれるので、時間が削減出来る。
柊のマネジャー加入は陸雄達にとってはありがたかった。
「よっし! 今日はめでたい日だから母さんにオムライス頼むかー。あっ、中野監督。俺たち投手は雨が降ったら専用の個室で投球練習ですよね?」
陸雄が投げ込みたいのか嬉しそうに話す。
久遠寺のこともあってか練習に飢えている様子だった。
それを知らない中野監督は一息つく。
「その前にランニング後にシートノックするぞ。次の対戦校の投球練習も昼過ぎに古川マネージャーが投げる。それまでいつもどうり練習開始!」
「「―――はいっ!」」
メンバーが準備体操をすでに終えて、ランニングする。
先団を錦、九衛、ハインが走る中で―――。
その後の紫崎と松渡や星川、灰田に陸雄が話す。
「いやー、マネージャー獲得で予備のユニフォームの洗濯してくれるし、ドリンクとおにぎりが確定で飲み食い出来るな」
中団の前にいる紫崎が背中で答える。
「フッ、強力な外国人選手が入ったダークホースの私立白石高校(しらいしこうこう)のことだけ考えておけ―――」
紫崎の次に走る松渡が話に入る。
「この前の情報じゃ久遠寺君は二回戦の時のジェイクみたいな海を渡ってきた選手じゃないらしいね~。僕と同じ県外の外国人選手か~」
陸雄と同じ位置にいる星川も話題に乗る。
「投手のこともありますよね? 昨日の夕方から古川マネージャーがスクリューとパームとシンカーを中心に投げてますし……でも、相手の投手は完全に対策練習出来ないとか中野監督が言ってましたね」
「だって、その投手は僕と同じサウスポーなんだよね~。いや~、四回戦は投げがいがあるな~」
松渡がそう言って、ペースを上げる。
「朝のスマホのメッセ見たけど……中野の話じゃ今回は打順と控えが違うらしいな? 投手も投げる順が違うとか……」
中団からやや後ろを走る灰田が答える。
「確かに―――前半は守りで後半は攻めの野球で行くとか言ってたな」
陸雄が灰田の疑問に答える。
「どのみち灰田は先発で投げて、後半は外野手の仕事になると思うよ~」
「また炎上したら図書館で言ってた九衛にボロクソに言われるな」
灰田が半笑いでそう言って、ペースを上げる。
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