第352話


「さーてと、休みは休みだが軽く走るか―――」


 清香と帰った夜の始まり頃の時間―――。

 陸雄はジャージに着替えて、河川敷まで夜に走る準備を終えた、


「真伊已とまた顔合わすのは気まずいし、公園側のコースに変えるか―――」


 母親に夕食は後で良いっと告げて、ランニングを始める。


(途中の公園で筋トレすっか―――まだ明るい夜の始まりとはいえ遅くはマズいか。ササッと済ませますかねぇ)


 陸雄はゴールは同じ河川敷だが、コースの違う公園のコースに向かう。


(切間ってムカつく奴のこと忘れる意味でも走り込むか―――)


 陸雄は早めのペースで走っていく。



 陸雄が走って間もない時間―――。

 公園近くを通り、自販機で飲み物を買う。

 ジッパー式のポケットから財布を取り出す。

 硬貨を入れようとしたとき―――。


「ワンワン! ワンワンオ!」


 大型犬が陸雄の後ろで吠えた。


「おわっ! 犬ぅ!?」


 驚いた陸雄が硬貨を落としてしまう。

 硬貨が自販機の底に入っていく。


「あー、あと10円で買えるジュースがぁ!」


 陸雄が汗を流しながら、ショックを受ける。

 吠えた先を見ると―――ゴールデンレトリバーが吠えていた。

 自販機が音を出して、入れた硬貨をお釣りスペースに落とす。


「す、すいません! うちの犬が吠えてしまって―――ジュース代は僕が出します」


 ゴールデンレトリバーの飼い主の少年が頭を下げる。


「あ、ああ―――こっちこそ犬の散歩中に近くに気づかずに不用心によって、すいません」


 陸雄も頭を下げる。

 そのまま少年の顔を見上げる。

 ジェンダーレスの髪型の少年だった。

 男性ではあるのだが、顔だけ見ると色白の可愛い少女顔である。


「喉乾いているんですよね? お詫びにどうぞ」


 少年が二百円を陸雄に渡す。


「あ、すいません。じゃあ走ってきたんで頂きます」


 そう言って、陸雄がアクエリアスを硬貨に入れ直して、購入する。


「遠くまで走ってきたみたいですね。体つき良いですね。スポーツをしてる方ですか?」


 お金を落としたとはいえ、貰った手前答えないわけにもいかない。

 陸雄はその質問に答える。


「ええ、はい。高校野球でレギュラーやってます」


 そう言って、陸雄がアクエリアスを飲む。


「あ~! うめぇなぁ!」


 そう言って、飲みかけのアクエリアスのキャップを閉じる。

 首にかけているタオルで顔を拭く。


「すごいですね。僕も野球してるんですよ。レギュラー取るの大変ですよね? 僕一年生でレギュラーなので、先輩達になじむのが大変で―――」


 少年はレトリバーを落ち着かせて、話す。

 顔を拭き終わり、水分も満たした陸雄がその話に乗る。


「へー、俺も一年生なんですよ。四番の強い打者の先輩がいて―――今年の夏の試合なんだかんだでその先輩の力もあって勝ち残りました」


「あはは♪ 試合で当たるかもしれませんね」


「そうっすね。って! ええっ! 同じ野球してる高校ですか? あ、すいません」


「いえいえ、僕達も勝ち進んでますから―――お気になさらずに」


 陸雄に緊張が走る。


「ど、どこの高校でしょうか?」


「あ、気になりますか? 練習あるんですよね。公園の先にドネルケバブ屋があるんですけど。うちの犬のリッチモンドと一緒にそこまで走りませんか?」


 少年がそう言って、名前を呼ばれたゴールデンレトリバーの首輪に着いている紐を軽く押す。


「―――リッチモンド。もうちょっと走って、公園で休もう」


 名前を呼ばれたレトリバーが起き上がり、元気にワンワン吠える。


「そうっすね。じゃあ、ジュースのお礼もありますし―――軽く走りますか―――」


「ありがとうございます。ドネルケバブ屋台に着いたら、僕が奢りますから安心してください」


「えっ! 良いんですか? すいません」


「いえいえ―――同じ一年生でレギュラーだし、これも何かの縁でしょう。じゃあ、走りましょう」


 私服姿の少年だが―――短パンに半袖の運動がすぐに出来そうな服装をしている。

 陸雄はドネルケバブ屋台のある方向まで一緒に犬を連れてランニングした。


(今日会った尖ってる切間って奴と違って―――柔らかい人柄だなぁ。今日はよく同じ高校野球選手に会うなぁ)




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